宇都宮徹壱ウェブマガジン

名古屋グランパスの降格を「人事」から読み解く ヨシハラ(グラぽ主催・編集長)インタビュー<1/2>

 早いもので今季のJリーグはすべての日程が終了。各クラブで来季に向けた人事往来が進んでいる。そんな中、最もアグレッシブな動きを見せているのが、初めてのJ2降格が決まった名古屋グランパスである。

 シーズン終了直後、ボスコ・ジュロヴスキー監督と田中マルクス闘莉王の契約満了を発表。さらに、小川佳純や竹内彬といったクラブの顔や主力選手たちもチームを去ることとなった。その一方で、サンフレッチェ広島から佐藤寿人を三顧の礼で迎え、新監督には川崎フロンターレの風間八宏氏が就任する見通しであることが報じられた。

 それにしても、世界的なビッグカンパニーであるトヨタを親会社に持ち、Jリーグ開幕時からずっとトップリーグであり続け、これまで幾多の日本代表選手を輩出してきた「名門」名古屋グランパスは、なぜJ2降格の憂き目に遭ってしまったのか。これまでにもさまざまな検証がなされてきたが、今回は「人事」という切り口から考察することにしたい。ゲストにお招きしたのは『グラぽ 名古屋グランパスについて語り合うページ』の主催・編集長であるヨシハラさんである。

『グラぽ』をご覧いただければわかるが、ヨシハラさんはいわゆる取材者ではない。各エントリーで取り上げているのは、大半がメディアを通しての二次情報だ。ただし、単に報道された情報を紹介するのではなく、そこから独自の分析や考察、さらには今後予想される展望などを説得力のある文章で綴っている。実はヨシハラさん、外資系コンピューターメーカーの人事部で永らく人材育成に携わっており、組織や人事についてはまさに専門分野。今回のインタビューでは、J2降格に至るプロセスと構造的な問題について、ヨシハラさんに分析していただいた。(取材日:2016年11月7日@千葉)

■ライバルに研究され尽くしていたグランパス

――今日はよろしくお願いします。J2降格が決定した日から4日が経過して、少しは落ち着かれたかと思うのですが、今の心境はいかがでしょうか?

ヨシハラ サンフレッチェ広島の森保(一)監督の「J1リーグというのは恐ろしいリーグだ」という言葉を噛み締めています。何が恐ろしいかというと、各チームがある程度拮抗しているだけに、ちょっとしたボタンの掛け違いですぐに低迷してしまう可能性が高い、ということですね。ただ、降格そのものに驚きはなかったです。というのもグランパスの場合、13年と14年のオフに連続して主力選手を流出させています。そんなことをやっていたら、悪い影響が出ないほうがおかしい。ボタンの掛け違い以前の話だと思います。

――決して今季だけの問題ではなくて、その予兆みたいなものがあったと。

ヨシハラ そうですね。これまでは優秀な選手がいたから、個人能力で持ちこたえることができたんです。それなのに、その優秀な選手を流出させてしまったと。優勝した10年のDFラインを13年オフに3人(阿部翔平、田中隼磨、増川隆洋)、さらに昨シーズン終了後には(田中マルクス)闘莉王まで切ってしまいました。残されたのは、若い選手や経験が少ない選手ばかり。そのメンバーだけでは、やっぱり能力的にはいかんともし難かったですよね。

――瑞穂での最終節(湘南ベルマーレ戦)、ヨシハラさんは現地でご覧になっていましたよね。試合後のスタッツを見ると、シュート数が18本と7本でかなり名古屋が押していたのは明らかです。結果として、カウンターでスコンスコンとやられてしまった印象ですけど。

ヨシハラ 直接的な敗因はそこですけど、10月上旬に3週間の中断期間があったじゃないですが。そこで対戦相手に研究され尽くしていたというのが、前提としてあったと思います。中断明けに対戦したジュビロ磐田は、やはり降格のリスクがあったわけですけど、ウチのボランチのイ・スンヒがボールに食いついてCB(センターバック)が露出してしまう弱点を、ちゃんと研究していましたよね。そこに松浦(拓弥)がドリブルで仕掛けて、CBとの1対1の状況をかなり作っていました。結果は1-1の引き分けでしたけど、その後にグランパスと対戦するチームに、いいヒントを与えていたと思います。

――ドリブルで仕掛けてボランチを引きはがし、CBを露出させたところを突くと。

ヨシハラ 結局、湘南戦の失点シーンもそういう感じでしたから。磐田はそこを突き切れなかったけれども、彼らが発見した穴っていうものを、きっちり湘南に突かれたなという感じはしています。

――その湘南戦ですが、試合前はどんな雰囲気だったんでしょうか?

ヨシハラ 実は盛り上がっていたんですよ。「ここで勝てばたぶん残留できる」という感じで、かなりポジティブな雰囲気でしたね。

――試合前は同勝ち点のアルビレックス新潟を含め、4チームに降格の可能性があったわけですからね。ところが前半6分に山田直輝、37分に高山薫に立て続けにゴールを決められてしまいます。

ヨシハラ それでも「まだ、何とかなる」という感じで、応援のボルテージが下がることはありませんでした。そのあと、後半5分にシモビッチがPKを決めて1点差に迫ったときには、盛り上がりは最高潮でした。

――そうしたら10分後、再び山田に決められてしまったと。これ、闘莉王のミスからでしたよね。

ヨシハラ そうです。あれでサポーターの声が小さくなってしまいましたね。呆然としていた人も多かったと思います。僕自身は覚悟している部分もあったので、試合が終わった直後は落ち込むというよりも、周囲の仲間たちを慰めていたという感じでしたね。

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