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【無料記事】U-20ワールドカップ盛り上げ隊が残したもの(徹マガバックナンバー) ちょんまげ隊長ツン&上野直彦インタビュー<1/2>

 今週は徹マガのバックナンバーより、通巻115号116号に掲載されたインタビュー記事「U-20ワールドカップ盛り上げ隊が残したもの」を再構成し、無料記事として公開する。今月はメインコンテンツの更新が5回あるため、久々にバックナンバーからの蔵出しとさせていただいた。

 今回この記事を選んだのは、先にパプアニューギニアで開催されたU-20女子ワールドカップで、日本が2大会ぶりに3位となったことに由来する。今から4年前の2012年、日本で開催された同大会で日本は初の3位に輝いている。この時のメンバーには、猶本光、横山久美、田中陽子といった選手たちがプレーしていた。いわゆる「ヤングなでしこフィーバー」が起こったことで、ご記憶の方も少なくないだろう。

 もっとも本稿は彼女たちではなく、この日本開催を盛り上げることを目的とした、その名も「U-20ワールドカップ盛り上げ隊(以下、盛り上げ隊)」を取り上げている。インタビュー取材に応じてくれたのは、ちょんまげ隊長のツンさん、そしてライターの上野直彦さんである。

 この盛り上げ隊の大きな目標のひとつが「日本戦以外の試合もできるだけ盛り上げることで、日本で新たな国際大会を開催しよう」という壮大なものであった。誰かに頼まれたわけではない、あくまでも勝手連的な活動である。その具体的な活動は、地道な作業の連続であった。大会開催を知らせるチラシ(もちろんアンオフィシャル)を大量に刷って、全国のサッカーファンが集まりそうなお店にばらまく。震災被災地の支援へのお礼の横断幕を人海戦術で作成する。各国大使館に電話でアポイントをとって、盛り上げ隊の活動への理解とサポートをお願いする。観客もまばらなスタンドで、日本以外のチームに懸命に声援を送る、などなど。

 そんな彼らにとり、最も晴れがましい舞台となったのは、決勝戦後に行われたセレモニーの際に、出場国の国旗と各国語で書かれた横断幕すべてをスタンドに掲出した瞬間であろう。この美しく感動的な光景は国内外で報じられ、多くのサッカーファンの知るところとなった。すべての国に対して、分け隔てなくリスペクトの姿勢を示すこと。それこそが、ホスト国としてのあるべき姿であり、それを具現化させたことが盛り上げ隊の一番の功績であったと個人的には考えている。4年前の日本大会での「知られざるサイドストーリー」として、この機会にあらためてスポットライトを当てることにしたい。

 最後に、ちょっとだけ宣伝を。宇都宮徹壱WM会員になると、こうした2010年からの6年分の徹マガバックナンバー記事を無料で閲覧することができる(通巻30号以降)。未登録の方は、この機会にWM会員登録をご検討いただければ幸いである。(取材日:2012年9月3日@東京)

■基本コンセプトは「集客、感謝、応援」

——今日はよろしくお願いします。さっそくですが、このプロジェクトの言い出しっぺって、ツンさんですよね?

ツン はい。たまたま何かのイベントで女子サッカーライターの江橋よしのりさんと話していた時に「女子U-20ワールドカップが今年あるんだけど、これが盛り上がっていないんだよね」という話を聞いたのがきっかけですね。そこでもし、盛り上がっていたり上手くいっていたりしていれば、たぶん僕は出しゃばっていなかったと思う。

——それが5月くらいの話ですね?

ツン ですね。それで、まずFacebookに「U-20ワールドカップを盛り上げ隊」というのを作って、そこに無断で江橋さんと上野さんの名前を載っけたんですよ。僕だけだったら女子サポーターは巻き込めないなと思って。まあ、事後承諾だったんですが(笑)。幸い、おふたりからは「大丈夫ですよ」みたいな感じだった。

——名前を使われた上野さん(笑)、いかがですか?

上野 そういう必要性は感じていたんですよね。このままいったら、もう確実に集客的には難しいだろうし、盛り上がらないだろうなって。

——盛り上げ隊の基本コンセプトは、3つありましたよね。すなわち「集客、感謝、応援」。それぞれについて説明していただけますか?

ツン まずは集客ですよね。ひとりでも多くの人にスタジアムに足を運んでほしい。それから、感謝。去年の東日本大震災の直後に、世界中のスタジアムで喪章を付けてくれたり、黙祷をしてくれたりしたんですけど、それらをひとつひとつ返せないジレンマがあって。あとは応援。アジアカップでもロンドン五輪でもそうでしたけど、ホスト国の人たちが、自分たちとは関係ない国を応援してくれていたんですよね。

上野 私もロンドン五輪に行きましたが、バレーボールの3位決定戦を見て感動しましたね。銅メダルがかかった日韓戦。ちょんまげ隊の人と行って、銅メダル獲得の瞬間を見ることができたんですけど、そうしたらロンドンっ子たちが半分くらいに分かれて、片方は韓国のフェイスペイントをして韓国の応援をして、片方は日の丸を振って応援していたんですよ。ロンドンの人たちはそういう最高のホスピタリティをしてくれたんです。

ツン 男子サッカーの日韓戦が行われたカーディフでもそうでしたよね。ロンドンからちょっと離れた会場で、しかも向こうの人たちからすれば「far east」同士の対戦なのに、ほぼ満員でしたもんね。7万人ほど入るところの6万人は入っていましたよ。

上野 コンコースでも、日本のマントをしている人や、韓国の旗を巻いている人と普通にすれ違うんですよね。

ツン あれが驚愕でしたね。日本人のように、ただただ観戦にいて、お行儀よく座っているんじゃなくて、向こうの人は楽しみ方をわかっているから、どちらかに肩入れするほうが面白いとわかっている。だから参加型ですよね。

上野 そう。今、ツンさんが言ったみたいに、応援ではなくて、参加するんだと。ホスト国なら参加して欲しいという意識になりましたね。

——その意味で、日本戦以外での集客は重要でした。そのために、どんなアイデアがあったのでしょうか?

ツン 集客はチラシ作ったり、皆さんで分散してラジオ番組なんかに出たりして、告知して、足を運んでくださいということを訴えかける。あと、上野さんや江橋さんには、ラジオに出てもらったりして、スタジアムに足を運んでもらうように告知しました。

——なるほど。そして感謝と応援というところで、横断幕というアイデアが出てきたわけですね。これはどなたのアイデアですか?

上野 それは江橋さんでしたね。

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