宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】献本御礼『ちゅうぞうのおしごと!』吉田鋳造著

 前回ご紹介した『KFG蹴球文化論』に続いて、またしても書籍JANコードが入っていない書籍である。アンダーカテゴリーをテーマにする場合、なかなか商業ベースに乗りにくいという事情もあるだろうが、あえて「手売り感」にこだわるスタイルも確実に定着しているように感じる。今回ご紹介する本書も、作り手から読者へ、お互いの顔が見える距離感で広がっていくようなタイプの作品である。

 著者は地域リーグ界隈の伝説的な語り部、吉田鋳造さん。私が地域決勝を取材し始めたのは05年だが、この人はブランメル仙台(現ベガルタ仙台)が昇格した94年から、このカテゴリーをウォッチし続けている。鋳造さんが運営するHP『吉田鋳造総合研究所』には、膨大な旅と取材の記録がアーカイブされており、私も時々参考にさせていただいている。本書は、その『鋳造総研』から選りすぐりのコンテンツを書籍化したものだ。

 ページをめくってみて、まず目に飛び込んできたのが「宇都宮徹壱というプロフェッショナル」の章。言ってみれば、鋳造さんによる「宇都宮徹壱論」である。詳しくは本書をご覧いただくとして、読み進めながらさまざまな記憶が蘇ってきた。鋳造さんと初めてお会いしたのは『股旅フットボール』の取材で岐阜を訪れた06年の秋(確か『スルタン』というトルコ料理屋だったと記憶する)。以来、地域決勝や全社のたびに、盃を酌み交わしながら奥深いサッカー談義を重ねてきた。そこでの議論のエッセンスは、私の文章の中にも確実に染み込んでいる。

 本書は見た目こそ薄いが、実際にはかなり読み応えのある(この価格で大丈夫なのだろうか)。地域リーグというカテゴリーやそれぞれの試合への眼差し、そして旅先での情景や思索などを紡いでいく筆致。鋳造さんの世界観は、もちろん私とはまったく異なる。しかし、だからこそ『サッカーおくのほそ道』からアンダーカテゴリーの世界に興味を抱いた方には、ぜひともお勧めしたい。地域リーグの世界観が、さらに奥行きをもって感じられるはずだ。購入はこちらから。定価1200円。

【オススメ度】☆☆☆☆★

「鋳造さん、先日のインタビュー取材は今月の最終週にアップ予定です!」

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ