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「地域リーグの語り部」が伝えたかったこと 吉田鋳造(『ちゅうぞうのおしごと!』著者)インタビュー<2/2>

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■「今の山口サポにも読んでもらいたい」

――私は鋳造さんの旅日記が大好きなんですが、本書では2008年に沖縄で決勝ラウンドが行われた地域決勝、そしてイスタンブールでの旅行記が収録されています。数ある旅の記録から、この2つを選んだ理由を教えてください。

吉田 まずは国内のほうから。地域決勝については20年以上見ていますし、これは書かなきゃいけないと思っていました。では、どの年を選ぶかとなったときに、最もドラマが多かったのは08年だと思ったんです。新潟全社からドラマは始まっていましたからね。

――優勝が長野(パルセイロ)でしたね。2位が(ホンダ)ロック、3位が(NEC)トーキン、4位が松本山雅。

吉田 だけどトーキンが降りて、松本山雅が出場権を得たんですよね。トーキンが準決勝に勝利して地域決勝の出場権を決めた次の日に、会社が経営危機を発表しているんです。結果として松本が出場したわけですが、この本では松本については「全社4位」ではなく「補充」としました。その理由は、本の中に僕の見解を書いてありますので、ぜひ読んでください(笑)。

――その山雅を1次ラウンドでPK戦の末に破ったのが、レノファ山口でした。この勝利で山口は、地域決勝初挑戦で決勝ラウンドに進出するわけですが、鋳造さんはこの試合も現地でご覧になっているんですよね?

吉田 その時の模様も書きました。当時、山口にはサポがぜんぜんいなかった。もちろん松本は、当時からサポがたくさんいました。ですから、PKで負けたときの(鳥取)バードスタジアムの静寂はすごかった。ピッチ上で喜ぶ山口の選手たちの声しか聞こえてこない。まさに「消音」というか、音を消し去ったような感じでしたね。

――石垣島での決勝ラウンドでは、山口は結果として3戦全敗でしたけど、V・ファーレン長崎との第3戦もいろいろとドラマがありましたよね。

吉田 あの試合、山口にもチャンスはありましたからね。初戦でロックが長崎に0-5で粉砕されて、第3戦でも町田(ゼルビア)に敗れている。長崎は2日目で3位以上が決まっている(編集部註:この時は3チームがJFL昇格だった)。その長崎に90分で勝利すれば、山口は3位に浮上して昇格できるという状況でした。実際、山口は0-0の状況でずっと頑張っていたし。

――結局、長崎が土壇場で勝ち越すわけですが、決勝ゴールがクラブ設立時からのメンバーで、現役銀行員の八戸(寿憲)だったというのが劇的でしたよね。

吉田 この年はぜんぜん試合に出ていなくて、しかも途中出場でのあのゴールでしたからね。昔から長崎を応援していたサポは感無量でしょう。

――敗退した山口についてはいかがですか。

吉田 僕はこの本をできれば今の山口サポにも読んでもらいたいんです。今はJ2で頑張っているけど、実はこういう誇るべき歴史があるんだよ、ということを知ってほしいんですよね。

――決勝ラウンドでもサポはいなくて、地元の小学生が応援していましたからね。

吉田 だからこそ、この本から追体験してほしいんです。山口がどうやって松本を倒して、石垣島ではどんな戦いを見せながら散っていったのか。これを読めばわかります(笑)。

――というわけで、山口サポの皆さん、ご購入はこちらで(笑)。もうひとつ、イスタンブールについては簡単にお願いします。

吉田 この時は、嫁になる人と行ったんですけど、いくら彼女がサッカーファンでも、あまりマニアックなところには行けない(笑)。僕はアジアとヨーロッパを結ぶ都市に行きたかったし、もちろんサッカーも観たかったし、イスラム文化にも触れてみたかったので、それでイスタンブールを選びました。もちろんサッカー観戦記も書いてあるけど、僕としてはイスラム圏旅行記として読んでほしい。特に今、イスラムが偏った目で見られる世界情勢になりつつあるのでね。

――イスタンブールの旅行は2012年ですよね。まだテロ事件が頻発する前。

吉田 そうです。本当に楽しかったし、あのタイミングで行っておいてよかったと思います。残念ながら今のイスタンブールは、正直お勧めはできませんよね。

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