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【無料記事】奇跡の50歳と25年目の重みと 今日の現場から(2017年2月26日@ニッパツ)

 いよいよ2017年のJリーグが開幕! ということで2月26日はニッパツで行われたJ2リーグ、横浜FC対松本山雅FCを取材してきた。試合は、前半16分の野村直輝のゴールで先制した横浜FCが、その後も試合を優位に進めて1-0で勝利。この日、スタメン出場した三浦知良の50歳のバースデーに花を添えた。

 この日の現場は、J2とは思えないくらいの報道陣が駆けつけた。入場者数も1万3244人とほぼ満員で、前売りチケットはソールドアウト。観客とメディアの目的が、25年目のJリーグ開幕で50回目の誕生日を迎えるカズに集まっていたことは言うまでもない。周囲の期待に応えるかのように、スターティングリストにはカズの名前が刻まれた。12年ぶりの開幕ゴールが期待される中、この日の主役はシュートを1本放っただけで、65分にピッチを後にした。

 ありていに言えば、この試合でのカズが「プレーで魅せた」とは言い難い。得点に絡んだわけでもなければ、シザースフェイントを披露してスタンドを沸かせたわけでもない。相手ボールの時には愚直にパスコースを切り、味方が攻め上がる時はゴール前に詰めてチャンスを待つ。ほとんどの時間帯は、その繰り返しであった。足元での球際でも空中戦でも、なかなか勝たせてもらえないし、唯一のシュートも当たり損ねで本人も苦笑していた。

 それでもニッパツを訪れた観客のほとんどは、この試合で目撃したふたつの事実に、深い感銘を覚えたはずだ。まず「奇跡の50歳」が、息子くらいの年代の選手たちのプレーしていること。そして伝説の「93年5月15日@国立」のピッチに立っていた男が、25年目のシーズンも現役を続けていること。

 私自身は、どちらかというと後者のほうに重みを感じた。ちょうどスポナビでJリーグ25周年」企画の連載を開始し、最近はJリーグの過去の映像や資料を目にする機会が多かったのも、理由のひとつとしてあるかもしれない。昨今のカズの存在感というものは、まさに「Jリーグの歴史がユニフォームを着ている」という表現がぴったり当てはまる。試合後、スタンドからの歓声に笑顔で手を振る姿を見て、年長のベテランフォトグラファーは「93年のJ開幕の高揚感を思い出したよ」と、実感を込めて語っていた。

 カズの50回目のバースデーは、奇しくも25年目のJリーグ開幕と重なって、これ以上にないくらいの祝祭ムードに包まれていた。余談ながら、この日の対戦相手が「Jリーグ百年構想」を絵に描いたような松本山雅であったことも、より感慨を深める要素となった。何はともあれ、今年も無事に新しいシーズンがスタートしたことを、心から喜びたい。

<この稿、了>

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