宇都宮徹壱ウェブマガジン

アクシデントの原因は「容量オーバー」にあらず?「DAZN視聴不具合の原因と対策のご報告」会見全文

 これほど深々と頭を垂れる英国人というものを初めて見た。3月2日、都内某所で開催された「DAZN視聴不具合の原因と対策のご報告」の会見冒頭。登壇者であるDAZNのジェームズ・ラシュトンCEOとウォーレン・レー開発部長は、2月26日のJリーグ中継での不具合について、「すべてのファン、ステークホルダー、そしてパートナーの皆さんに今一度心より深くお詫び申し上げます」と謝罪した。

 この会見の内容については、すでに各メディアによって報じられているが、当WMでは1時間25分に及ぶ会見の内容を会員向けに全文公開することにした。会見でDAZN側は、どのような言葉で謝罪と説明を行ったのか。そして取材する側は、どれくらいの関心度と知識をもって今回の会見に臨んだのか。各メディアの報道と照らし合わせて読むことで、今回の問題がより立体的に認識できると考えたからだ。

 本稿をお読みいただく前に、お断りがある。会見では、技術的な専門用語が頻出するが、今回はあえて註釈を付けなかった。理由は2つ。まずスピード感を最優先させたかったこと、そして門外漢による註釈によって生じる誤解を排除したかったこと、以上2点を考慮しての判断である。また、急な会見であったため、今回の撮影はすべてiPhoneで行っている。以上、ご理解いただければ幸いである。

■「今週末の第2節以降、万全を期して臨む」

(会見に先立ち、村井満Jリーグチェアマンがスピーチ)

村井 Jリーグの村井でございます。大変お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。すでに皆さまご承知のとおり、先週末、Jリーグの開幕時におきまして、中継の不具合がございました。(Jリーグ)開幕を楽しみにしていた、多くのファン・サポーターの皆さま、関係者の皆さまに大変悲しい思いをさせてしまいました。大変申し訳なく思っております。

 本来、スポーツは結果を見てしまってから配信を見るよりは、ライブで見たいというニーズがあることから、今回ライブストリーミングサービスを導入したわけですが、今回の主旨から照らしても、大変残念な結果に終わってしまいました。大変申し訳なく思っております。

 JリーグとDAZNは、ひとつのチームとして連携しておりました。それぞれの役割に関しましては、スタジアムの中継と制作、そして制作データをDAZNにお渡しするところまでがJリーグの役割でございます。そして、それを配信用のデータに変換して、視聴者の皆さまにさまざまなデバイスで最適化する形で配信するのがDAZNの役割でございました。

 今回、そういう意味ではスタジアムでの制作、データをお渡しするところまでは問題なく対応できたんですけど、配信のところでトラブルがございました。なので、多少テクニカルなところをDAZN側の皆さんに、今回の原因と今後の対応についてご説明いただくことになっております。

 Jリーグ・DAZNとしては、今週末の第2節以降、万全を期して臨むつもりでございます。いろんな問題等があったときにも一致協力して対応していくつもりでございます。それではジェームズさん、よろしくお願いします。

ラシュトン 皆さま、今日はわれわれのメディアブリーフィングに来てくださりありがとうございます。先週末のダゾーン・プラットフォームの不具合によってご迷惑をおかけした、すべてのファン、ステークホルダー、そしてパートナーの皆さんに今一度心より深くお詫び申し上げます。(ラシュトンCEOとレー開発部長、深々と頭を下げる)

 弊社は放送プラットフォームを提供している立場として、この責任を重く受け止めており、先週末のわれわれのプラットフォームのパフォーマンスは決して許されないものだと思っております。トラブルの根本的な原因はすでに解明されており、この問題は完全に解決しております。プラットフォームには再発防止のための容量の増設とシステム強化を図っております。

 ファンの方々、またメディアの方々の中には、これまで弊社から詳細な説明がなかったことに苛立ちを感じていらした方もいらしたと思います。この会見で、皆さまにご納得していただければと思います。弊社ではすべてのステークホルダー、関係者の方々に率直に、正直に向き合っていくことを強調したいと思います。

 われわれは公に情報を出す際は、正確で確実なものを出さなければならないと考えております。そのため、今回の複雑なプラットフォームの問題に関しましては、(今日の)メディアブリーフィングまでに数日かかってしまいました。それでは、コンテンツ制作本部長の水野重理から説明させていただきます。今回の説明ですが、誤解のないように水野のほうから日本語で発表させていただければと思います。プレゼンのあとで、皆さまからのご質問に出来る限りお答えさせていただければと思います。

■「同時に複数の試合を生中継で行ったことが原因ではありません」

(水野本部長が登壇)

水野 説明させていただきます。ウォーレン・レーに代わり、弊社が把握している状況についてお知らせします。まずライブ配信の視聴不具合発生状況について。発生日時は、2月26日16時47分。影響を与えたコンテンツといたしましては、ライブではガンバ大阪対ヴァンフォーレ甲府。愛媛FC対ツエーゲン金沢。見逃し配信については、J2の全試合で影響を受けました。

 時系列で推移をまとめます。

 16時47分、愛媛FC対ツエーゲン金沢において、画面上でバッファリング状態となり、試合が視聴できない状況が続きました。

 16時50分、ガンバ大阪対ヴァンフォーレ甲府において、画面上がバッファリング状態となり、試合が視聴できなくなりました。

 また同日22時50分すぎ、J2全試合の見逃し配信が視聴できない状態であることがわかりました。

 続いて原因についてです。まず、はじめに申し上げたいのが、同時に複数の試合を生中継で行ったことが原因ではありません。弊社ではドイツと日本、合わせて20以上の試合を生中継することは日常的に行われております。つまりプラットフォームのキャパシティを超えたことが原因ではありません。

 われわれが特定した原因は「オートスタート・ストップツール」と呼ばれるものに不具合があったことでした。これについては、のちほど詳しく申し上げます。その前に、弊社の配信のシステムについてご説明したいと思います。

(映し出された図を見せながら)これはJリーグの会場からお客さまに映像を届けるプロセスが詳細に描かれています。皆さん、向かって左側がスタジアムになり、一番右側がユーザーになります。左側のスタジアムから、Jリーグさんで作られた中継映像が弊社の制作中継所を経てロンドンに送られます。さらに先、右側になりますが、「エンコーディング・プラットフォーム」と書かれてあるところが、配信用のデータに関するシステムでございます。先ほど村井チェアマンからご説明がありましたように、中継映像を制作してロンドンに送るところまでは、まったく問題がございませんでした。

 さらに付け加えさせていただきますと、弊社の場合はすべてのプロセスにおいてバックアップ体制を用意しております。たとえばスタジアムから弊社の施設に(映像が)行くときも2つのルートを経ていますし、そこからロンドンにも複数のルートがあります。さらにエンコードする、配信用のデータに変更するシステムにおいても、さまざまなバックアップを施しておりました。ですので、繰り返しになりますが、今回の問題は容量が十分にバックアップされていなかった、ということではありません。容量は十分にございました。では、どこが問題だったのか。

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