宇都宮徹壱ウェブマガジン

日本がブラジルに追いつくために必要なこと 高田敏志(ブラインドサッカー日本代表監督)インタビュー<1/2>

 今週は久々にブラインドサッカーを取り上げることにしたい。来たる3月20日(月・祝)、フットメッセ大宮にて『さいたま市ノーマライゼーションズカップ』が開催され、ブラサカ日本代表は世界王者のブラジルと対戦する。私は日本代表取材のため、残念ながらこの興味深いカードを観戦することができない。そこで、現地で応援する人たちに有益な事前情報を提供するべく、ブラサカ日本代表の高田敏志監督をゲストに迎えることにした。

 高田監督が就任したのは、2015年の11月。それまでは代表のGKコーチを務めていたことから、いわゆる「内部昇格」と見る向きも少なくなかったように思う。確かに形の上ではそう見えるのだが、実は魚住稿前監督時代と比べると、ブラサカ日本代表は組織面でも戦術面でも革命的な変化を遂げている。その詳細はインタビューの内容をご覧いただくとして、ここではそのヒントとなる映像のみを提示しておく。これを見れば、ブラサカにあまり詳しくない方でも「高田体制以前/以後」の変化が十分に理解できるはずだ。

 ちなみに高田監督が2020年の東京パラリンピックで目指している目標は「金メダル」である。「え、これまでアジア予選を突破したこともないのに?」と疑問に思う方も少なくないだろう(私自身もそうだった)。しかし今回のインタビューでは、きちんとその理由についても明示していただいた。3月20日のブラジル戦への予習だけでなく、2020年の東京パラリンピックに向けたマニフェストとしても、本稿をお楽しみいただければ幸いである。(取材日:2017年2月24日@東京)

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(C) 日本ブラインドサッカー協会

■「ブラジルを基準に見ていかないと世界一にはなれない」

――今日はよろしくお願いします。さっそくですが、ANAの2020年に向けた『Ready For Takeoff』の記事を拝見しました(参照)。錚々たるアスリートの中に、高田さんと川村怜選手の姿があって感激しました(笑)。

高田 羽生結弦、福原愛、ウサイン・ボルト、高梨沙羅という流れの中で僕と怜みたいな(笑)。ブラサカを知らない人は「誰、この人?」って感じでしょうね。

――いやいや、そんなことはないですよ。実際、最近のブラサカは「攻めている」という印象を受けます。こうした積極的な情報発信もそうだし、昨年のドイツやブラジルへの海外遠征もそうですよね。高田さんが監督に就任してから、今までとは違ったことをどんどんやっていこうという明確な姿勢を感じます。

高田 よく選手とかスタッフに言っているのは、「俺らがもっと上手くなって勝っていけば、周りも動いていってくれるから」ということなんです。だからこそ、そこはアグレッシブに行かないといけない。例えば、落合(啓士)は、あの年齢(39歳)になってもまだ上手くなっている。彼に限らず40歳近い選手はこれまでも努力をしてきたし、新しいやり方を取り入れているから、さらに上手くなると思っています。

――高田さんがブラサカ日本代表監督に就任されたのが15年の11月。それから1年3カ月が経過しましたが、この間やってきたことを、まずはざっくり振り返っていただけますでしょうか?

高田 まずチーム強化、競技力の向上という点で言うと、予想していた以上にレベルは上がってきたと思っています。技術、フィジカル、メンタル、戦術、サッカーに必要な要素を分解・分析して、それぞれのコーチングスタッフに(強化)プログラムを組んでもらっています。それから「世界基準」。アジアを突破できていない現状はありますが、中国がどうだ、イランがどうだということよりも、まずは「ブラジルを基準に見ていかないと世界一にはなれない」ということを共通認識にしています。

――ブラジルとの距離感については、のちほどじっくり伺うとして、まずは現在の豪華なコーチングスタッフについて、ご紹介いただけますか?

高田 日本代表チーム部長の小森(隆弘)は、元フットサル日本代表ミゲル・ロドリゴ監督のコーチとしてワールドカップにも出ていますし、現在も(フットサル日本代表の)ブルーノ・ガルシア監督と一緒に仕事をしています。戦術・技術のコーチは4名。このうち小西(鉄平)は海外のフットサルの代表監督経験がありますし、中川(英治)はクーバー(コーチング・ジャパン)のヘッドマスターとして、この前もベンフィカ・リスボンに研修を受けるなど、CLに出るようなクラブでも勉強しています(編集部註:残り2名は福永克己、上林知民)。それとGKコーチの武田(幸生)もイタリアで指導者研修の経験があります。

――これに加えて、フィジカルのコーチが2名(中野崇、高塚政徳)メンタルのコーチが大儀見(浩介)さん。まさに錚々たる顔ぶれですよね。しかも、高田さんの周りに9名のエキスパートがいるというのも、まるでA代表を見ているかのようです。今まで、これほど各ポジションに専門スタッフを置いたことって、あったんでしょうか?

高田 ないですね。魚住前監督時代は、阿部(良平)コーチ、GKコーチに僕、そして現コーチの福永(克己)さんがいました。今回のスタッフに関しては、僕が言うところの「世界基準」というものが理解できる人材を集めました。幸い、僕の第一希望の人ばかりが集まったので、とても満足しています。

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