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日本がブラジルに追いつくために必要なこと 高田敏志(ブラインドサッカー日本代表監督)インタビュー<2/2>

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■なぜ「2年契約」という条件を断ったのか?

――あらためて高田さんとブラサカの出会いについて伺いたいんですけど、GKコーチに就任したのはいつだったんでしょうか?

高田 12年の6月ですね。たまたま、落合と出会う機会があって「GKをもっと強化できればパラリンピックに行ける」と。映像を見せてもらったら、確かにそうだと感じましたし、本職のGKコーチが教えれば絶対に上達するという確信がありました。監督が魚住さんに決まった後、初めて練習に参加したのは13年の1月くらいでしたね。

――それまでGKコーチいなかったんですよね。

高田 そうです。GKの選手2人で練習するだけでしたし、何をやっていいかがわかっていなかった。それにGKだけでは失点を防げないから、ディフェンスを含めたGKの練習が必要だし、GKのコーチングの質を高めていく必要性も感じていました。「下がれ」とか「引け」とか「深さをとれ」とか、ディフェンスへの指示が人によって違っているので、言葉の定義が整理されていなかった。まずはそこからでしたね。

――晴眼者であるGKが、見えていないFP(フィールドプレーヤー)に指示を出すわけですから、たしかに言葉の定義は重要ですよね。

高田 言葉の定義もそうだし、声の質やボリュームやタイミングも重要なんです。FPは聴覚に集中しているから、余計な情報が入ってくると疲れてしまう。だから「クリア、クリア、クリア!」と3回叫ぶよりも、1回で「クリア!」って言ったほうがいい。本当にいいブラサカのGKって、実はコーチングのレベルが高いんですよね。

――なるほど。ところで高田さんがGKコーチだった頃の代表は、守備ありきの戦術だったわけですよね。でも残念ながら、リオのパラリンピックにたどり着くことはできなかった。この結果を受けて、当時はどんなことを考えていたんでしょうか?

高田 守備だけを言うと、日本は世界のトップレベルだと思います。世界選手権でも、なかなか失点しませんでしたし。ただし、ゾーン3まで相手に攻めさせていたから、試合のイニシアチブは常に相手にあった。だったら発想を転換させて、こっちがボールを保持する時間長くすれば、それだけ守備をしなくてよくなる。それと、できるだけ高い位置でボールを奪うというのもちゃんと理由があって、自陣で奪ってドリブルで運ぶと、どうしてもその間にミスしてボールロストをしてしまいがちなんですよ。

――つまり、今後世界と戦っていく上では、そうした部分から変えていかないといけないと。それってGKコーチ時代から感じていましたか?

高田 感じていましたね。この延長上では、東京大会での勝利は難しいと思いました。前体制の代表チームは確かにいいチームだったし、可能性はありました。でも戦術的な部分と合わせて、マネジメント部分も含めて変えていかないといけないというのは思っていました。

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