宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】現在進行形の映画『MARCH』 旅するカメラ(2017年3月18日@南相馬)

「僕たちと日帰りで福島を見に行きませんか?」

 そんなツンさんの誘いに乗って「ちょんまげ隊と福島を見に行こう。」というバスツアーに参加した。翌19日夜からUAEに出発することになっていたのだが、日帰りならば行ってもいいかなということで、この日はカミさんと早起きして上野駅の浅草口に集合。40人近いサッカー仲間がマイクロバスと乗用車に分乗して、一路北を目指すこととなった。

 今回のツアーは、ツンさんがプロデュースした東日本大震災復興支援映画『MARCH』にリンクしている。ご存じの方も多いだろうが、この作品は今年ロンドンで開催された「International Filmmaker Festival of World Chinema in LONDON」で『最優秀外国語ドキュメンタリー賞(Best Foreign Language Documentary Award)』を受賞している。

 ツアーの行程は充実の一言。Jヴィレッジの見学(ただし内部は工事中のために入れず)、「サムライブルーの料理人」西芳照さんのお店『アルパインローズ』での昼食、『MARCH』の撮影の舞台となった富岡駅跡地や小高駅前を訪れて、最後は南相馬市スポーツセンターでのSEEDS+(映画に出てくる小中学生のマーチングバンド)のコンサートである。

 私自身、『MARCH』は4~5回鑑賞しているし、SEEDS+の子供たちにも何度か会っている。だが映画しかご覧になっていない方ならば、作品に描かれた世界観を追体験ができる上に、SEEDS+の子供たちの成長した姿、そして彼らの素晴らしい演奏にも生で触れることができる。また、映画をきっかけに「福島のことをもっと知りたい」と思った人々にとっても、今回のツアーは非常に有意義なものとなったはずだ。

 ところでツンさんといえば、その尋常ならざる行動力は誰もが認めるところだが、その行動力ゆえにアイデアレベルの話がどんどん拡大し、結果として多くの人々を巻き込んでゆくというのが行動パターン(今回の『MARCH』はまさにその典型例だ)。その意味で、確かにツンさんは「迷惑なオッサン」なのかもしれない。それでもツンさんが憎まれないのは、実は彼なりにしっかりフォローアップしているからだろう。

 普通なら、映画が完成して賞が獲れたら「めでたし、めでたし」で終わりである。だがツンさんは違う。今回のツアーに関して言えば、活動を通じて知り合った仲間たちに福島の現状を知ってもらい、SEEDS+の子供たちに受賞の報告とお礼をし、そして食事やお土産で福島にお金を落としてもらうことが目的であった。一方で映画『MARCH』についても、このほどアラビア語版の字幕が完成し、UAE戦の前後でドバイやドーハでの上映会が予定されている。

 映画そのものは作品として完結しているが、SEEDS+と愛媛FCの交流は今も続いているし、『MARCH』の上映会は国内外で今後も続くし、福島へのちょんまげ隊の支援もまた続いてゆくことだろう。そう、すべては現在進行形なのである。被災地支援が本来、そうであるように。

【付記】次回のJ3の福島ユナイテッドFCのホームゲーム(3月26日のFC琉球戦)で、SEEDS+が演奏するとのこと。近所にお住まいの方は、ぜひとも彼らの素晴らしい演奏にも触れていただきたい。

<この稿、了>

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