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【無料記事】指揮官が自ら進退を語る大宮のジレンマ 今日の現場から(2017年4月8日@NACK5)

 関東地方の桜がようやく満開となった今週末、今季初めてJ1リーグを取材した。カードは大宮アルディージャ対ヴィッセル神戸。前節の時点での最下位と首位の顔合わせである(前日に浦和レッズが勝利して暫定首位となったため、試合前の神戸の順位は2位)。このカードを選んだのは、レアンドロ不在でも首位を走っている神戸、そして昨シーズンの好調ぶりから一転して5試合未勝利の大宮というコントラストが気になったからである。

 試合が動いたのは37分だった。大宮の右サイドバック、奥井諒の苦し紛れのパスを神戸のFW渡邉千真が拾ってドリブルで前進。ゴールエリア前で折り返したボールを、19歳の新鋭・中坂勇哉が左足でネットを揺らして神戸が先制する。エンドが替わった53分には、スローインからゴール前で混戦となったところを、DFの岩波拓也が押し込んで追加点。そのまま2-0で勝利した神戸が首位を堅持した。

 神戸も大宮も、今季初めてスタジアムで間近に見たが、それぞれが首位と最下位でいる理由をある程度は把握することができた。

 神戸に関しては、全員が非常に落ち着いていてコレクティブという印象。常に高めのポジションから、全員が連動しながらプレスを懸け続けることで相手のパスコースを消し、しかも貪欲にセカンドボールを拾いまくる。奥井のパスミスを誘って生まれた先制ゴールは、まさにその典型例であったわけだが、決めた中坂もアシストした渡邉も「当然」という表情で、特段に喜んでいなかったのが印象的だった。おそらくは何度もパターン練習を繰り返すことで、得点のイメージがしっかり共有されていたのだろう。

 では、大宮が最下位に沈んでいる理由は何か? この試合で一番に感じたのが、前線に「安心して任せられる」選手が不在であることだ。今季補強した大前元紀も頑張ってはいたが、今のところ家長昭博の穴を埋める存在とはなり得ていない(タイプが違うので当然とも言えるが)。ベンチは59分、大前に代えて長身のドラガン・ムルジャをピッチに送り込むが、これなども前線に決め手を欠くチームの現状を物語っているように感じられた。

 これで開幕から6連敗。失点10に対し、得点はわずか1である。試合後、挨拶に来た選手に対してゴール裏からは「シュート打てよ!」とか「少しは応援したくなるプレーを見せてくれ!」といった悲痛な言葉が投げかけられる。確かに、この日の大宮はあまりにもシュート数が少なかった(大宮は4、神戸は13)。特に後半は、ほとんどの時間帯を自陣での守備に忙殺された。いつも献身的に応援していたサポーターも、これではストレスがたまるばかり。では、この状況を変えるにはどうすればよいのか。

 試合後の会見、大宮の渋谷洋樹監督は問われていないのに、自らの進退について語っている。いわく「6連敗には責任を感じている。クラブが決断することが大事なのかもしれない。私はこのクラブの立ち上げから20年近く関わっているが、いろんなことをしっかり考えなければならない状況になったのではないかと思っている」──。長くこのクラブに関わってきたからこそ、危機的状況を最も理解しているのは、実はこの人なのかもしれない。ここに、今の大宮のジレンマが見て取れる。

 SNSでの反応を見る限り、大宮ファンの多くは渋谷監督に同情的だ。14年の8月に大熊清前監督の退任を受けて監督に就任。その年はJ2降格となったものの、翌年は1シーズンでのJ1復帰を果たし(しかもJ2優勝)、昨年はクラブ史上最高の5位にチームを導いた。そんな指揮官の実績を思えば、手のひらを返して「今すぐ辞めろ!」とならないのも当然である。しかしながら、現状のままではチーム状態が上向くとは思えず、結果として誰も幸せにはしないだろう。渋谷監督の功績をリスペクトしながらも、指揮官の交代やむ無しというのが、現時点での個人的な意見である。

<この稿、了>

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