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【無料記事】ご隠居が心配するJリーグの未来(再)  川端暁彦(ライター・編集者)インタビュー<1/2>

 皆さん、GWはいかがお過ごしだろうか。今月はいつもより1週多いため、徹マガアーカイブより2013年7月にアップした、川端暁彦さんのインタビューをお届けする。

 川端さんといえば、育成年代のジャンルにおいては当代きっての書き手であり、『エル・ゴラッソ』の編集長時代は、サッカーファンの目線に立った紙面づくりにも定評があった。このほど日本代表メンバーが発表されたU-20ワールドカップでも、現地からの精力的な情報発信が期待されている。

 このインタビューでのテーマは、Jリーグの改革案について。当時、JリーグはJ1の2ステージ制導入やJ3創設など、矢継ぎ早な改革を推し進めようとしていた。そうした動きに対する川端さんの意見は、今読み返してみても卓見に富んだものが少なくない。実際、川端さんが「アイデアがないんだなって思います」と指摘した2ステージ制や、「ナンセンス」と切り捨てたJ3のJ-22の「その後」を考えると、実に味わい深い内容となっている。

 なお、当時の川端さんはフリーランスになる直前で、エル・ゴラッソでの肩書は「編集企画本部本部長」。サブタイトルの「ご隠居」というのは、エル・ゴラッソで連載していた『ご隠居漫遊記』から引用している。(取材日:2013年7月12日@東京)

■Jリーグが改革を急ぐ3つの背景

――昨日(7月11日)、「2ステージ制は時期尚早」という結論が出て、とりあえず来季のJ1はこれまでどおり1シーズンで行くことになったようです。やはり浦和サポーターをはじめ、各会場での2ステージ制反対の横断幕が、ある程度の効力を発揮したといえるんでしょうかね?

川端 それなりに効果はあったんじゃないでしょうか。JFAハウスの前でも横断幕を出していたようですし。

――もちろん、スピーディーに物事を決めるっていうのは、Jリーグの良さのひとつだとは思うんですよ。ただ、今年に入ってから矢継ぎ早な改革案がポンポンと飛び出して、J3創設もあっという間に決まってしまった。そして今回の2ステージ制の話じゃないですか。いったいJリーグは何をそんなに慌てているんでしょうかね?

川端 なんかすごく焦りを感じます。で、その理由について僕が個人的に考えているのは、2011年の東日本大震災なんですね。あそこがターニングポイントとなって、Jリーグ関係者の意識がすごく変わったなと感じています。

――ほほう、震災が契機となったと。

川端 結局、それまでのJリーグって「小さくてもいいじゃない」「トントンでもいいじゃない」「収入が増えなくても、支出をどんどん減らしてこうよ」という考え方がまあ、主流だったと思うんですよ。

――いわゆる「身の丈経営」という話ですよね。その前提が震災によって一気に覆されたということでしょうか?

川端 もちろん震災は非常にイレギュラーな天災なので、Jリーグは何も悪くないんですよ。ホントにどうしようもない要因で、いきなり各クラブは収入がガタ落ちして、一気に経営が厳しくなってしまった。ただ、こういう不測の事態というものは、常に起こりうる現象ではあるんですよ。天災もそうだし、一気に不況に突入するとか、極端な話、戦争が起きるだとか。そういうことが将来的に起こり得るということを、Jリーグの上層部、特にお金を扱っている人たちは痛感したと思うんですよね。「本当にこのままでいいのか」と。

――なるほど。ただでさえ日本経済が縮小傾向にあった中で、あの未曾有の震災でしたからね。もうひとつ、時代背景を挙げるならば、昨年から今年にかけての「Jリーグ20年」アニバーサリーがあったのではないかと個人的に思っています。

川端 「あの頃は良かった」みたいな感じですか?

――そうです。それはすごく感じますよ。2ステージ制という発想自体、ものすごくノスタルジックな感じがしませんか(笑)?

川端 いや、わかります、わかります。数字を見ている人たちと、そういう雰囲気やムードを見ている人たちのベクトルがガッと一致したのが、この性急な改革の背景にあるのだと思います。「あの頃はよかったよね」「あの頃くらい収入はほしいよね」「ああ、お前もそう思っていたのか」みたいな。視点は違っているんだけど、求めている結論は同じみたいな感じですかね。あともう一点、僕が原因として考えているのが2010年のワールドカップです。あの時、ひとつの神話が崩れたんですよ。

――といいますと?

川端 つまり、それまでは「日本代表が結果を出せばJリーグが盛り上がる」みたいな神話があったんです。でも、あの時の日本代表は結果を出したんだけど、再開したJリーグは特に観客も増えず、スポンサーも増えず「あれ?」ってなってしまったんですね。それまでは、トントンで行っておけば、いつか日本代表が結果を出したときにガンっと行けるって思っていたのが、そうでもなかったことにみんな気づいてしまった。それが結果として、JFAとJリーグの関係が気まずくなってしまうきっかけにさえなってしまったと思うんです。

――なるほど。代表とJリーグは互いを支え合うという構図が、一気に崩れてしまったと。

川端 それまで協会は「日本代表が結果を出せば、Jリーグも儲けるんだから協力しろよ」って言えたし、Jリーグ側も「はいはい、そうですよね。日本代表、結果出してもらわないと困りますよね」ってそういう関係性だったんだけど、そのリンク感がかなり落ちてしまっていた。それは僕らメディアやファンは薄々感じていたことでしたが、Jの人たちも「オレたち、代表とは違う場所にいる」ということを強く感じるようになったんだと思います。

――まあ、今では代表の主力選手のほとんどが、ヨーロッパでプレーしている現状もありますけどね。今では子供たちも「Jリーグはヨーロッパへのステップアップの場」と考えているんじゃないですかね。

川端 海外組が非常に増えて、Jリーグがファーム化したとか盛んに言われますけども、その影響もあると思います。その一方で、そもそもJリーグを見ている層と日本代表を見ている層が、Jリーグの人たちが考えていた以上に乖離しているというのがもうひとつあるんじゃないかと。だからこそJリーグとしても「日本代表を見ている層が見てくれるようにしないといけないな」と考えるようになったのだと思います。

――2010年に代表とJリーグの乖離が発覚し、11年に震災に見舞われ、そして12年から13年にかけてJの懐古ムードがあった。こうした一連の流れがあって、危機感を抱いたJリーグが矢継ぎ早に改革プランを打ち出してきたということですね?

川端 個々人に聞いてみたら「そうじゃないよ」と言う人もいると思うんですが、大きな流れの中で出来上がったパラダイムとしては、そうなんじゃないかなと思います。

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