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【無料記事】「原爆の日」を4日後に控えた長崎にて(2017年8月5日@トラスタ)

 スポナビで連載中の『J2・J3漫遊記』の取材で、4年ぶりにV・ファーレン長崎のホームゲームを取材した。FC岐阜を迎えての試合は、後半アディショナルタイムのPKを途中出場の中村慶太が決めて長崎が2−1で勝利(もっとも、このPKの判定については物議を醸しそうだ)。同日、徳島ヴォルティスと横浜FCが敗れたため、長崎は5位から3位に浮上した。

 この日、長崎は「平和祈念ユニフォーム」を着用して試合に臨んだ。このユニフォームは、原爆の悲惨さと平和の尊さを次世代につなぐ大切さを表現したもので、原爆投下70年となった15年からスタート。3シーズン目となる今年は、ライトブルー(GKはピンク)の地に平和を象徴する折り鶴が描かれている。もっとも、過去2年の成績は1勝4分け。敗戦こそないものの、平和祈念ユニフォームの勝率は実はあまりよくない。

 それだけに高木琢也監督も、この日の勝利は順位とは別のところで嬉しかったようだ。試合後の会見では「勝てば『いいユニフォームだ』と思えるし、長崎に住んでいれば(平和祈念の想いは)日常のなかにある。われわれがピッチ上で身につけ、勝利することでいろんなメッセージになれば」と語っている。

 一方、3カ月前に社長に就任したばかりの高田明社長も、この平和祈念ユニフォームには思い入れがあるようだ。試合前のトークイベントでは、「ノーモア・ウォーのメッセージを、ここ長崎から世界に向けて送ろうではありませんか!」と観客に訴えて、盛大な拍手を受けていた。

 周知のとおりクラブは、今年に入って発覚した経営危機を受けて、ジャパネットホールディングスの子会社となった。現在は新社長の下、経営から現場に至るまでさまざまな改革が進んでいる。とはいえ、前経営陣が残したものすべてを否定するわけではない。平和祈念ユニフォームが今季も継続され、そして勝利を飾ることができたこと。「原爆の日」を4日後に控えた長崎の地だからこそ、その重みを痛感する。

<この稿、了>

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