宇都宮徹壱ウェブマガジン

「優勝したらスタジアムを作ってくれる」という幻想 トークイベント「専スタを作る自治体、作れない自治体」<4/4>

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■「行政がお金を出してくれる」という発想からの脱却

ツン 他に質問がある方、いらっしゃいますか?

──町田ゼルビアのサポーターです。町田市の一般予算は1400億円あるんですけど、スタジアムの改修費用がこのままだと70億いくんですよね。5億円あれば特別養護老人ホームが1つ建つ。それが14できるのが、70億というお金なんですよ。町田の場合、東京都のクラブというのを打ち出していないから、市のお金で何とかしなければならない。まず、お金がないとスタジアムは作れませんし、行政が用意するお金というのは税金です。税金でスタジアムが作られているということは、忘れないでいただきたいですね。

長岡 お話の主旨とずれてしまいますが、ちょうど私が鳥栖にいた時にJ1に昇格したんですけど、クラブハウスに問題があったんですね。その頃はグラウンドが1面で、建物もプレハブだったし、シャワーは外にあったんですよ。クラブライセンスが交付されるには、クラブハウスを新築して、グラウンドを2面にする必要がある。費用が5億4000万ぐらいかかったと思うんですが、そうしたら佐賀県が「半分寄付する」と言ってくれたんです。

宇都宮 太っ腹な話ですねえ。県としては、どこに価値を見出したんでしょう?

長岡 佐賀県は佐賀牛をはじめ、県として全国に広めたい商品があります。鳥栖がJ1に上がって、首都圏で試合をするときには県の営業部もチームに帯同して、佐賀の名産品をアピールできるわけです。大宮で試合をやったときには、佐賀牛の丸焼きを配っていました。そういうPRや営業って、TVでCMを流すよりもダイレクトにできるという魅力があって、そこにクラブの存在意義があるという県の判断だったと思います。

ツン でも佐賀県って、そんなに裕福ではないですよね。

長岡 47都道府県の予算だと、下から数えたほうが早いですよ。それでも彼らがクラブハウスを新築する費用の半分、2億7000万円を出してくれたことに驚きましたね。でも佐賀県からすれば、県外の人が集まる場所で県の名産品などをアピールできるのであれば、2億7000万円はむしろ安いと感じたのかもしれません。

 スタジアムに話を戻しますが、第1部のプレゼンで話しましたように、やっぱり行政に頼り切りのスタジアムって、いろいろと限界があるというのが僕の考えです。それは税収面でもそうだし、行政が作ったスタジアムでお金が回っていくかというと、なかなかそれも難しいと思うからです。

総統 僕も「行政がお金を出してくれる」という発想自体を捨てた方がいいと思うんですよね。いわきFCは、アンダーアーマーの商品を扱っているドームという会社が立派な練習施設を作って、さらにはスタジアムも作ろうとしているじゃないですか。そっちのほうに舵を切っていく必要があると思います。日本ハムファイターズだって、使い勝手が悪いのに使用料を払わなければならない札幌ドームを出たくて、自前のスタジアムを作ろうと言っているじゃないですか。そういう時代になっているのに、いまだに行政に「お金ください、スタジアム作ってください」と言っているのって、気持ち悪くて仕方がない。

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