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なぜFC町田ゼルビアの試合を描き続けるのか? ながさわたかひろ(版画家・絵描き)インタビュー<2/2>

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■単なる応援ではなくて「戦力になりたい」

――『に・褒められたくて』のシリーズを経て、ながさわさんはいよいよスポーツへのコミットを強めていきます。09年には、楽天の全試合のトピックスをエッチングで描くという、気の遠くなるような作品に取り組んでいます。これがその作品なんですが、わかりますかね? 写経のようにも見えますが、あれはひとつひとつが、楽天の試合を描いた作品なんですよ。この作品が生まれる経緯は?

(C)ながさわたかひろ

ながさわ ノムさんの楽天監督就任会見に話が戻るんですけど、「V9時台の巨人の野球を目指す」と言いながらも、それは1年でできるものではなくて3年はかかるという話をされていたんですね。1年目で種を蒔き、2年目で水をやり、3年目で芽が出るという。実際、ノムさんはそれを90年代のヤクルトで実践していたんですよ。それを聞いて、僕も3年かけて自分のスタイルを確立させようと思って、『に・褒められたくて』のシリーズを続けていたんです。でも肝心の楽天が、3年経っても結果が伴わなかったんですね。

――1年目が最下位の6位、2年目が4位、3年目が5位だったんですよね。

なかざわ そうです。結局、球団はもう1年任せるという判断をして、4年目の09年というのはノムさんの最後のシーズンということでスタートするんです。最後ということなら、自分も何か力になりたい。それも単なる応援ではなくて「戦力になりたい」って思ったんです。つまり、選手として、1試合1試合戦っていこうと。

――今日は会場に、町田ゼルビアのサポーターの方もいらしていますけど、応援するのではなくて「戦力になりたい」という考え方は、かなりユニークですね。

ながさわ もちろん応援することって「戦力」だとは思いますよ。でも僕は、形に残るものにしたかった。シーズン144試合、そのすべてを版画にして残すことにしたんです。

――それで、この年の楽天の成績は?

ながさわ 2位でした。優勝は叶わなかったのですがCSに進んで、今年の広島カープ以上に大騒ぎだったんですよ。その様子を見ていて、何かしら自分の力も作用しているだろうと思ったし(笑)、ノムさんも続投すると確信していました。そうしたら当初の予定通り、ノムさんはクビってことで。

――楽天の会長さんが、カネは出す代わりに現場に口を出すのは、サッカー界でも有名な話です(笑)。それで、どうなりました

ながさわ ノムさんが辞めるならチームを離れようと決断しました。で、次の年からヤクルトを追いかけることにしたんですけど、それは楽天の一場(靖弘)っていう投手が大好きで、トレードでヤクルトに移籍したからなんです。この一場というのが、まったく勝てないピッチャーで、選手層が薄い楽天だったから出番はあったんですけど、登板するたびに打たれる。そこに自分自身の姿を投影していたんですね。そんな一場が、ひとりでヤクルトに移籍するのは寂しいだろうと思って、僕も同じ道を歩むことにしました。

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