「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

【インタビュー】栃木SC 橋本大輔代表取締役社長インタビュー前編 ~一番のお客様は誰なのか~ 「地域を動かすときにはともにサポーターが動かないと何もできない」

一番のお客様は誰なのか

 

今季、チームは1年でのJ2復帰を目指して戦っているが、一方で同時に進めないといけないことがある。それがクラブ力の強化だ。そして、その力が端的に見えてくるのが観客動員数という数値になる。これは、地域からどれくらい支えられているかがわかる指標となる数値、と言い換えてもいい。この数字が上がってこないことには、チームのJ2復帰は難しい、ということも同時に言えてしまうのかもしれない。

もちろん、チームが勝てばグリスタに足を運ぶお客さんの数は増えるだろう。が、チームの勝敗だけに頼るクラブ経営というものは単なる博打に過ぎない。SCがこれまでずっと続けてきた博打経営である。

博打が好きな人はいる。しかし万人に愛されるものではない。サッカークラブ経営というのは、チームという主力商品があり、それを下支えする後輪となるべきクラブがしっかりしているからこそ、日本サッカー界の荒波を渡っていけるのだ。イチかバチか、ではダメだ。クラブは地域の隅々まで根を張り巡らして、クラブを愛する地域の人たちが生まれから死ぬまで、みんながクラブに寄り添っても倒れないほどの太い幹を伸ばせるだけ伸ばして、力強く前へ進んでいくことができなければいけない。クラブのあり方、その大事さは、近年、栃木SCに関わるすべての人たちが身をもって体感したことだろう。

ここまでクラブ力を底上げすることがおざなりになっていた栃木サッカークラブは、J3に落ちてしまった今こそ、クラブの力を強化していかなければならない。その意味で今オフ、新社長に就任した橋本大輔氏には大きな期待が懸かる。

 

橋本社長はクラブが2006年に栃木サッカークラブが法人化されるとき、すでに非常勤の取締役としてクラブに関わられていた。よって、クラブの歴史や内情には明るい。上記したようなことは十二分に肌感覚としてわかっているだろう。今回、そういう肌感覚を大前提としながら、現状のクラブが抱える課題、今やるべきこと、その上でいかに地域の人たちに愛され、観客動員数を底上げしていくのか、というテーマでインタビューをさせてもらった。

 

なお、橋本社長には事前にインタビューの趣旨を伝えており、橋本社長はインタビューにスムーズに回答できるようにと、クラブ内でも共有するという新たな『中期ビジョン』と題したプレゼン資料を持参されていた。このインタビューはそのプレゼン資料を軸に進めることになった。だいたいの骨子は以下のとおりとなる。

 

■中期ビジョン

1.絶対的価値である強いチームになるための環境(チーム強化)

2.夢や感動を共感する非日常空間という舞台(ホームゲームの充実)

3.地域の人材と夢を育てる環境(アカデミーの環境強化・充実)

4.地域との積極的アプローチ(地域密着の徹底と浸透)

5.安定したクラブ運営とサービス提供が可能な基盤(クラブの財務強化)

 

上記した各分野がトータルで成長することでクラブ力が強化され、結果として観客動員数も伸びるという考え方だ。インタビューは、これらの骨子を橋本社長が順に説明する形となった。

 

――地域の愛情イコール観客動員数という数値に出るのだと思いますが、栃木SCはここまでそこへの取り組みがおざなりになっていた。クラブにとってはスポンサー収入のほうがよほど収益の大きな比率を占めていて、そっちに目が行くのはわかりますが、やはり、今こそクラブは観客動員数を増やすためのことを本気で進めていかないといけない。なぜなら、観客動員力というのは、少なからずクラブの収益を支える柱になることはもちろん、チームが勝つため、J2に復帰するためにファン・サポーターの力が不可欠だと感じるからです。観客は選手を後押しすることができるし、グリスタに3000人よりも1万人がいたほうが選手は絶対に力が入る。本気で昇格しようとしたら、俗にいう地域の「一体感」が出てこないと難しいのではないかと。それで成功した例が松本山雅です。あるいは、ファジアーノ岡山は2009年に栃木と一緒にJ2に昇格した同期ですが、現状8000人を越えるファン・サポーターに支えられ、今季の売上は12億を計上しているそうです。今季の栃木の予算の約3倍です。ファン・サポーターが増えるからこそ、広告収入が上がる、チーム強化に資金を投じる余裕ができる。まずはファン・サポーターありきだろうと。

「おっしゃる通りだと思います。これは業界が違いますが、タウン誌『もんみや』を発行している株式会社新朝プレスでも、1990年代のバブルのころは 広告が媒体に載り、同時に読者もそれなりに増えていました。ただ、僕が新朝プレスに入った頃はもうすでに広告主のほうに目が向きすぎていた。でも、『もんみや』のお客様とは間違いなく読者なんです。僕が以前アメリカに渡ったときに、ずっと音楽とメディアの勉強をしていたんです。当時のアメリカではラジオが完全に広告ばかりになっていて、ラジオのDJが好きな曲を流せないという状況になっていた。それが抗えない流れになっていたのですが、そうすると本来ラジオで何をしようとしていたのか見えなくなってしまうんです。

新朝プレスで僕が社長になったとき、一度赤字になって銀行もお金を貸してくれないような時期がありました。そのときに『一番のお客様は誰なのか』を再定義しようということから始まって、『やっぱり一番の顧客は、読者だよね』となった。スポンサーは『もんみや』という媒体に価値を感じて広告を出稿し、事業をともに成長させていくパートナーだと。ライターやデザイナーなどの外注さんも、呼び方は『外注』じゃなくて、あくまでも一緒に事業で良いものをつくっていくパートナーという考え方に変えた。そして、一番大事な意識として、まず読者に目を向けることを徹底したんです。そこに立ち返ったときに『もんみや』の売上部数が復活しました。

僕はこの経験を栃木SCでも取締役として伝えてきたのですが、なかなか伝わりきらなかった。でも、僕は今こうして社長に就任したなかで、ファン・サポーターの来場者があるからこそ広告の価値が出ると思っているし、実際に地域を動かすときにはともにサポーターが動かないと何もできないと思っています。それが僕の根本にあるものなんです。僕は中津(正修、現取締役)さんや水沼(富美男、現相談役)さん、新井(賢太郎、初代栃木SC社長)さんらに比べたら力はないですが、今までお三方がつくってきたベースの上に、いかにクラブを地域に根付かせることできるか。それが僕の課題だと思っています」

 

 1.絶対的価値である強いチームになるための環境(チーム強化)

「プロスポーツにおける絶対的な価値=強いチーム」

 

――何はともあれ、現状ではもう一度J2に戻って、同時に収益をあげられるようにクラブ力を強化しないといけない。そのために何より集客増を目指していく。そういうテーマでお話を伺いたいのですが、社長就任の会見時に「まずは現状を分析して整理したい」と話されていました。その整理したものを教えてもらえますか。

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