経験に裏打ちされた浦和の明らかな変化【島崎英純】2016Jリーグ1stステージ17節・ヴィッセル神戸戦レビュー

FC東京戦を踏襲した守備

チームにかなりの変化が見られた。

累積警告で出場停止となった槙野智章の影響でバックラインの整備が必須となった浦和レッズは、リベロに那須大亮、右ストッパーに遠藤航、左ストッパーに森脇良太という布陣で臨んだ。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は試合前日の練習で平川忠亮を右ストッパーに起用する案を匂わしたが、最終的にはDF登録の選手を並べ、森脇以外はポジション特性の高さを重視するセーフティ案を採用した。

また、浦和はビルドアップの手法でもリスク回避策を施した。対戦相手のヴィッセル神戸は3─4─2─1で対峙してきた。今季の神戸は4─4─2が定型だが、ネルシーニョ監督は柏レイソル時代と同様に浦和と同システムに合わせる策を採った。もちろんネルシーニョ監督が全ての形を模倣するわけもなく、抜け目なく微調整しているが、それでも神戸が『ミラーゲーム』を仕掛けるのは想定内だった。つまり対戦相手は1トップのレアンドロが最前線に立ち、これに対して浦和は3バックが彼に対応する形を保ったままビルドアップしていた。

リベロ+2ストッパーが最後尾でビルドアップする形は前節のFC東京戦でも見られたものだ。また、バックラインが横並びになり、ダブルボランチが中盤に陣取るポジショニングは3バックを採用するチームの常套策でもある。だが、ペトロヴィッチ監督が志向する独特な戦術から見れば、この形は亜流になる。相手が1トップの場合はふたり、2トップや1トップ+トップ下などの場合は3人で対応するのが守備の鉄則だが、この日の浦和はレアンドロひとりに対して、あえて3人で対応する所作を見せた。この点について試合後、遠藤航に聞いてみた。

「そうですね。確かに相手は1トップだったのですが、最初は3枚回しにしました。前節のFC東京戦でもそうしましたし、序盤はリスクを犯さず慎重に戦おうというチーム内のコンセンサスがあったので。ただ時間が経過してからはモリくん(森脇)と僕がサイドの高めに開いて、阿部さんや(柏木)陽介くんが後ろに降りてきて那須さんとビルドアップする形も少しありました。そのへんは対戦相手によって、戦況によって臨機応変に変えられればと思います」

相手の陣形を確認してビルドアップの仕方を変える手法は昨季までも見られた。そのコンダクトはほぼボランチの阿部勇樹がしていたが、最近のゲームでは相手カウンターへの警戒感からビルドアップのやり方を事前に決めている。チームにとって3連敗、5戦連続無勝利の影響は大きく、また第16節・サンフレッチェ広島戦での壮絶な敗戦を経て、チームは攻守バランスに注力するようになっている。

相手1トップに3バックが対応すれば後ろの人数が余る。ペトロヴィッチ監督は本来攻撃に人数を割くことで独自のチームスタイルを標榜してきた。リベロとダブルボランチの一角を最後尾に置いて両ストッパーを両サイド深くに張らせ、サイドアタッカーとともに数的優位性を生み出して局面打開を図るパターンは、昨今のJリーグで猛威を振るってきた。しかし相手の研究に遭い、『ミラーゲーム』などの対策を採られることで、浦和は再考を余儀なくされ、また個人能力の高い外国籍FWが仕掛ける一発のカウンターなどに対応する必要も生じて、現在の浦和は一時的にノーマルな戦略に落ち着いている。

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