日々雑感—武藤雄樹—無垢な心

全体練習後に

柔和な表情を浮かべている。いつだって朗らかで、快活な返事を返してくれる。ジョギングする姿をカメラに収めようと近づくと、破顔一笑して「あんまり苦悶している表情を撮らないでくださいよ〜。柄じゃないんだから」と軽口を叩く。最近は全体練習後に青木拓矢とふたりでランニングに勤しみ、歩みを止めてからはピッチに座り込み、ふたりで長時間談笑することもある。これが公式戦でノーゴールが続いていた武藤雄樹の普段の姿だった。

悔恨に暮れる夜があった。2016年5月25日。AFCアジア・チャンピオンズリーグ・ノックアウトステージ・ラウンド16の第2戦、韓国ソウルのワールドカップスタジアムでFCソウルと対戦した浦和レッズはPK戦の末に敗れ、志半ばでアジアでの戦いが終焉した。当時の武藤はコンディション不良に悩み、相手の屈強なフィジカルに弾かれ、ハーフタイムでズラタンとの交代を命じられると、死闘となったPK戦はベンチで仲間を見つめることしかできなかった。ハードスケジュールに苛まれて思うように動けない身体、責任を果たせないもどかしさ、遠ざかるゴール。昨季ベガルタ仙台から移籍加入し、厳しいスタメン争いを勝ち抜きレギュラーを奪取した彼はこの時、浦和レッズで初めて雌伏の時を迎えていた。
 武藤は律儀で誠実な人物だ。職業や立場の差異なく誰とでも敬語で接し、豊かな感情を、その穏やかな性格で覆い隠す。チームが敗戦しても、不甲斐ないゲーム内容に終始しても、自らのプレーレベルが低調でも、試合後の彼は柔らかな表情を崩さない。

(残り 2330文字/全文: 2980文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »