【無料掲載】日々雑感【コラム】ー梅崎司・心からのエールを

Text&Photo by Hidezumi SHIMAZAKI

無心で走っていた

豪雨の中を走っている。チームメイトが引き上げた後に、ひとりで走っている。

出場機会を得られない。以前なら精神をかき乱してプレーレベルを落とした。不慣れなポジションで起用されるならピッチに立たない方がましだと、監督に直談判したこともある。でも、自らを省みて思った。何のために、誰のためにサッカーをプレーしているのか。精進を重ねるのは理由がある。己の存在意義を見出したことで、彼は一切の迷いを断ち切った。

栄光と挫折の日々があった。努力家であることを自負した。ヨーロッパへも旅立った。思うような成績を残せず、再びJリーグへ帰還し、浦和レッズでの飛躍を心に期した。2008年のことだ。

苦悩の日々は続く。椎間板ヘルニア、右膝前十字靭帯損傷を負って長期離脱を余儀なくされた時は、「何故、自分だけがこんな苦労を背負うのか」と、入院中の病室で泣いた。

2011年3月11日。東日本大震災が発生し、テレビ越しに現地が被災する様子を見た。刻々と伝えられる惨状に心を傷めた。ショックだった。あり得ない光景が目の前に広がっている。それを見て、「俺の悩みなんて、なんて小さいんだろう」と思った。2016年4月16日の熊本地震では当地の現況を憂い、鳥栖GK・林彰洋と共にJリーグ1stステージ第14節のサガン鳥栖戦が行われるベストアメニティスタジアムに被災者100名を招待した。

サッカーをプレーできる境遇に感謝しなければならない。『昔の自分を全部捨てよう』と思った。新しい自分、成長する自分を感じたいと思った。昔の自分も好きだ。ガンガン前に行く、好戦的な選手だった。でも今は良い意味で余裕を持ち、自らの力を正当にチームへ還元させたい思いが強くなった。

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