【無料掲載】日々雑感ー懸命に生きるー森脇良太

幾度も流した涙

遠藤航のPKが決まった瞬間、チームメイトが一斉に遠藤やGK西川周作の元へ駆ける。キャプテンの阿部勇樹はゴール裏の大サポーターへ向けて拳を突き上げていた。その中で、森脇良太はベンチ前に佇むミハイロ・ペトロヴィッチ監督と熱く抱擁を交わし、それが終わるとピッチに崩れ落ちて号泣していた。

最初は誰がうずくまっているのか分からなかった。双眼鏡で確かめてみた。背番号が見えない。ようやく46番という数字を捉えた瞬間、お腹が痛くなったのかなと思った。本人に聞くと、彼は爆笑してこう答えた。

「お腹は痛くなってないですよ(笑)。泣いてたの! 柄じゃないって? しょうがないじゃないですか、涙が出ちゃったんだから(笑)」

嗚咽していた。何故、それほどまでに感情が溢れてしまったのだろう。その心境は、これまでの彼の道のりを振り返れば分かる。

感情豊かな選手だ。朗らかな性格で、ムードメーカーとして認知されている。ひとりでカップを掲げる宴会芸はもはや定番になった。たまに調子に乗り過ぎて顰蹙(ひんしゅく)を買うこともある。ただ、その表面的な振る舞いは彼の本質の一端に過ぎない。

2013シーズン。浦和レッズは2008シーズン以来5年ぶりにアジアの舞台で戦った。しかしAFCアジア・チャンピオンズリーグのグループステージで中国スーパーリーグの広州恒大、韓国Kリーグの全北現代に後塵を拝して敗退した。

終戦を迎えたのはグループリーグ最終戦の地であるタイ・バンコク近郊のムアントンだった。浦和はタイ・プレミアリーグのムアントンFCに10で勝利して2位・全北現代と同勝ち点で並ぶも、当該対戦成績の差によって3位に甘んじた。最終戦前からグループステージ突破が厳しいことは理解していた。だから試合後の選手たちも半ば達観したようにミックスゾーンで言葉を紡いでいたように見えた。しかし森脇は違った。目を真っ赤に腫らし、声を振り絞って「サポーターの期待に応えられなくて、監督の思いに応えられなくて申し訳ない……」と吐露した。

記者との会話を終えてチームバスに乗り込む足取りが重い。倒れ込みそうになりながらバスに辿り着いた彼はしかし、地元タイのサッカーファンからサインを求められると足を止め、しばしペンを走らせていた。次第に頭が落ち、背中が丸まっていく。夜も更けた亜熱帯のバンコク近郊は未だ気温30度を超えていた。それなのに、森脇の身体はガタガタと震えていた。彼は多数の地元観衆に囲まれながら、悔しさを露わにして泣いていた。

2014シーズン、Jリーグ第33節・サガン鳥栖戦。後半アディショナルタイムにDF小林久晃のヘディングシュートが決まると、浦和の選手全員が崩れ落ちた。中でも森脇の傷心は深く、試合が終了するとピッチ上に大の字に倒れて駄々っ子のように足をバタバタとさせていた。到底受け入れられない。サンフレッチェ広島から浦和に完全移籍して2年が経ったのに、何のタイトルも得られない。森脇自身は2012シーズンの広島でリーグ優勝を果たしたが、それは森保一監督の下で成し遂げた快挙だった。今の浦和でタイトルを獲る意味。彼は、それを深く考えている。

次のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »