【無料掲載】日々雑感—新たなる誓いー梅崎司

Text&Photo by Hidezumi SHIMAZAKI

それでも僕は前を向く

YBCルヴァンカップ準々決勝第1戦・ヴィッセル神戸戦の後半アディショナルタイム。神戸のスローインを起点に左サイドで攻防が起こる。相馬崇人から藤田直之へボールが渡ったところでカバーに入る。藤田との1対1でクロスを防ごうと横にシフトしながらジャンプして着地すると、左膝から嫌な音がした。負傷の程度は分からなかったが、確実に何かが切れたと思った。靭帯かもしれない。突起している部分を触る。分からない。関芳衛ドクターが駆け寄ってきたから「プレーはできない」と言った。担架が運ばれてピッチを退く。松葉杖がないと歩けない。重症じゃなければいい。内側靭帯だったらいいが、それでも完治までに1ヶ月は掛かるかもしれない。前十字じゃなければ…

診断の結果は左膝前十字靭帯の損傷だった。それでもショックは受けなかった。2010年に右膝前十字靭帯損傷を負った時の方が症状は酷かったし、何より当時の経験があるから、今回も必ず治癒して、またピッチへ立てると思えた。こうなったら、また一から身体を作り直そう。正直、最近は様々な箇所に負担があったのに、それを隠して追い込み過ぎていた。何かが足りないから全力を尽くす。それはプロサッカー選手として当然の振る舞いだが、自らを鑑みられなかったら、どこかで何かが弾けてしまう。左膝が悲鳴を上げたのは己を戒める貴重なメッセージだった。今は冷静に、そう捉えている。

まだ走れないから、スクワットやバランス維持のトレーニングをして徐々に患部に負担を与えている。手術をした病院へ通い、大原グラウンドへも週に2回行って野崎信行トレーナーの指示を受けてリハビリに励んでいる。

2016年10月28日。ジュビロ磐田とのアウェー戦を目前に控えた選手たちが試合前日の午前練習を終えて慌ただしく身支度している。午後からリハビリを予定していたから、すれ違う仲間に少しだけ挨拶して黙々とトレーニングに専念した。大分時代からの盟友・西川周作は全てを分かっているから、特に気の利いた言葉なんて掛けない。

「司は今でも元気。何も心配いらない。アイツがこれまでも影で努力してきたことを知っているから、今回も自然に帰ってきて、また同じようにスーパーなプレーを見せてくれるはず」

自分もそう思っている。心配なんていらないよ。だから皆には、チームのために勝ってきてほしい。自分は自分のやるべきことに注力するから。

埼玉スタジアムで得た思い

ルヴァンカップの決勝は埼玉スタジアムのスタンドで観た。ガンバ大阪と死闘を演じてPK戦へ突入する前にピッチ脇のベンチへ移動して仲間の勇姿を見つめた。(遠藤)航がシュートを決めて優勝が決まった時は嬉しくて涙がこぼれた。最初は半信半疑だった。自分がプレーしない試合を観て、皆と一緒に喜べるのか。でも実際は一緒に戦っているつもりになって、優勝を遂げた時は心から感動した。改めて、『このチームが好きなんだ』と思えた。

ピッチへ入って歓喜の輪に加わる。優勝したのは初めてだったから、マキ(槙野智章)に「優勝カップを見せて」と言った。その姿がオーロラヴィジョンに映し出されて周囲に煽られた。カップを上げなきゃいけない雰囲気になって、恥ずかしいけど頭上に掲げた。その瞬間、ゴール裏のサポーターがチャントを奏でてくれた。ケガをして、戦線離脱して、試合にも出られない選手に声援を送ってくれる。自分は本当に幸せ者だと思った。

サポーターはピッチ上のプレーだけでなく、普段の振る舞いやサッカーへの取り組み方で選手を評価するのだと思う。彼らは選手の歩んだ道のりや生き様を見ている。2008シーズンに大分トリニータから浦和レッズへ移籍加入してからは良いことも悪いこともあった。辛いこともたくさんあったが、2016年10月15日の埼玉スタジアムで浦和レッズサポーターから送られたチャントとコールは一生忘れない。この時ほど、今まで自分が歩んできたサッカー人生を誇れたことはないから。

今の自分はまだ、個人として結果を残せていない。全く満足できないし、もっと向上したい。それでも今の自分の生き方に共感してくださる方がいる。一緒に喜怒哀楽を表してくれる。それは、自分にとってかけがえのない財産だと思える。

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