日々雑感ーRuhrderby Dortmund 2008

記者席からの風景

小さな街で

  2008年の秋、初めてドイツ西部ルール地方のドルトムントへ降り立った。ドルトムントは地方の工業都市で、近隣のデュッセルドルフやケルンなどに比べると観光的な要素もなく、街の規模は小振りだった。Sバーン(ドイツの国有鉄道)のドルトムント中央駅もそれほど大きくなかったが、ここからドルトムント郊外へ向かう列車やUバーン(ドイツの地下鉄)の路線が幾つも伸びているため、交通の要衝としてはそれなりに機能していた。

 それでも、この日は駅構内に普段と異なる光景が広がっていた。黄色い服を着た連中がビール瓶を片手に大声を張り上げている。ビールのラベルを凝視すると、『Dortmunder(ドルトムンダー)』と書いてある。一瞬「コイツらのことか?」とも思ったが、調べてみると麦芽とホップを100パーセント使用した力強いコクが特徴の地ビールだという。ビール好きとしては黙ってみているわけにいかない。現地の人を捕まえて「それ、どこで買ったの?」と聞くと、駅のキオスクで売っているらしい。急いで売店に行って購入すると、なんと500ミリリットルで約1.5ユーロだった。なんてお財布に優しい国なんだと感嘆しながらラッパ飲みすると、日本人が大好きな爽快かつ麦の旨味が深い、素晴らしいピルスナービールだった。

 遠くから青いユニホームを着た一団が近づいてくる。彼らは黄色い人たちと一触即発の雰囲気を醸し出している。彼らが持っている瓶には『Veltins』と書いてある。この銘柄も同地域の地ビールらしいが、ドルトムントのキヨスクにはほとんど置いていない。なぜなら、このビール会社は憎きアウェーチームのメインスポンサーだからだ。相手のホームスタジアムは『Veltins-Arena』という名らしく、噂によるとホームチームのサポーターには美味しい『Veltins』を振る舞い、アウェーチームのサポーターが陣取る付近には薄いビールを提供するらしい。とことん意地悪だが、こういう対抗意識も面白い。

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