セックスワークの禁止は実習生のような不当な労働を肯定する -実習生制度とセックスワーク 2 (松沢呉一) -3,317文字-
安い労働力を確保するために売春を禁じている?
前回の続きです。以下の動画は日本における外国人労働者とセックスワークの関係と完全にリンクしています。
これがカンボジアの現実です。
売春を取り締まり、その女たちを更生させるために職業訓練所に送りこむ。女たちはそこに閉じ込められ、刑務所同様の環境でただ働きを強いられる。そこから出ても低賃金の仕事しかない。売春で食えてきた女たちは生活もできなくなる。得をするのは資本家と海外ブランド、その製品を享受できる先進国の人々。そして、先進国から援助金を得る国家やそれで食っているNGOの人々。
この現実を見ると、安い労働力を資本家と先進国に提供するために売春が禁止されているのではないかと疑いたくもなります。
『女工哀史』を読め
この構造はカンボジアだけじゃなく、多くの国で見られます。
日本で言えば、かつての遊廓で働く娼妓と女工の関係がこれに近い。生活環境、賃金、食べ物のどこをとっても娼妓の方が恵まれていました。私の言うことを信用できない方はどうか『女工哀史』をお読みください。タイトルはよく知られているのに、読んでいる人が少ないのですが、著者の細井和喜蔵もまた娼妓の方が女工よりマシであると強調しています。
経営者や工場長のセックスの相手を強いられることが少なくなかったのですから、その点でも大差はない(「強いられている」という言い方は必ずしも正しくないのですが、長くなるので、これについては省略)。
前回取り上げたのりこえねっとTVの中で、日本人経営者の愛人を中国人女性がやっていて、それが悪いという話が出てますが、低賃金の実習生をやっているくらいなら愛人になって、より稼いだ方がいいと考えるのが出てくるのはそうおかしなことではない。
これは、売春をやっていた女たちがブローカーになって、あちらから人を呼んだり、自分で店をやって女たちを雇い入れるようになることと重なっていて、早く金を作って自分もそうなりたいと語るのもいます。
そういういわば「やり手」の女たちの中にはひどいのもいるのは事実ですが、こういう女たちを一律に悪人扱いはしにくいのと同じで、日本人経営者の愛人になるのを一律に悪人扱いはしにくい。悪人かどうかはともかく、これらと同じように、実習生をやっているくらいなら売春をした方がいいと考えるのが出てくるのもまたおかしなことではない。目的はなにより金なのですから。
つまりは、実習生という制度がセックスワークに人材を流出させる構造になっています。現実には逃げられないため、実習生からセックスワーカーになるのがいないとしても、呆れるくらい安い賃金の仕事が、売春を相対的に「いい仕事」にしているわけです。彼らの多くは、日本でいい思い出を作りたいのではなく、金を求めて来日しているのですから、セックスワークに就く女たちはいなくならない。実習生のままではいい思い出も作れないでしょうし。
このことは戦前の女工が娼妓になったり、私娼になったりするケースが多かったことと類似し、これは戦後のある時期まで続きます。当時は合法(戦前の私娼は非合法の黙認と言った方がいいですが)ですが、売防法以降は、女たちが望む仕事を封じます。まさにカンボジアと同じです。
にもかかわらず、セックスワークのみがひどく批判されるおかしさ。これは戦前の廃娼運動の欺瞞によく表れています。
知られざる存娼派の主張と知られざる廃娼派の本質
社会構造を変えない限り、売春をする女たちはいなくならない。娘が売春をして一家を支える家族制度を変えない限り、娘は売春するしかない。そこを放置して売春を否定すると彼女たちが困窮するだけである。であるなら、当座は遊廓を維持した上で労働環境を向上した方がよく、それよりも社会の変革をすべきであるというのが存娼派の主張です。
これだけではないのですが、そういう主張が現にあり、私はこれにもっとも説得力を感じます。
こういった存娼派の意見は広く知られていないため、疑う方もいらっしゃいましょう。そういう方々は『風俗問題』(大正10)を読むとよろしい。のちに時代小説家として大成する鷲尾雨工が本名の鷲尾浩名で出したものであり、これを読むと、今では人権運動と誤解されている廃娼運動の本質が見えてきます。
買うと万単位します。私もそういう値段で購入しましたけど、国会図書館のサイトでタダで読める時代になりました。この本についてはこれまでにも論じてきているので、詳しくは省略。
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