松沢呉一のビバノン・ライフ

日本の動画投稿者は顔出ししない … 「実名と匿名」問題をYouTubeで考える [ビバノン循環湯 15] (松沢呉一) -4,526文字-

2009年に出した著書『クズが世界を豊かにする』の宣伝用にブログに書いた文章。すでに読めなくなっているので、こっちに移動。本の宣伝はどうでもいいとして、ここで調べた数字は意味があろうかと思います。

メルマガにもっと詳細な文章を書いていたはずなのですが、うちに保存されていないみたい。よくあることです。

なぜ日本人は飛び抜けて身元を伏せるのかについてもメルマガで分析をしていて、思い出せる範囲で、追記としてまとめておきました。要するに、私らは責任をとりたくないのです。政府のせい、会社のせい、上司のせい、他人の せいにしておきたい。それが名前を出すかどうか、顔を出すかどうかに反映されていると見るのはそう無理のあることではないでしょう。

 

 

日本人は匿名を好むと言われるのは本当か?

 

vivanon_sentenceクズが世界を豊かにする─YouTubeから見るインターネット論拙著『クズが世界を豊かにする』は「YouTubeについての本」と言ってしまうと誤解されそうです。

今まで雑誌でも、何度かYouTubeの特集が組まれていますが、たいていは動画が主人公です。『クズが世界を豊かにする』では、YouTubeを使用してはいても、動画が主人公ではありません。その動画に映し出された、あるいは映し出されていない「意味」が主人公です。

全然わからんですね。説明が難しいのであります。

そこで今回は、そのことをわかっていただけるように、サンプルを出します。最近、メルマガ「マツワル」でやった試みです。

まずは以下をお読みください。

 

 

◇「日本人は匿名志向・外国では実名志向」を疑う
http://d.hatena.ne.jp/oritako/20091104/1257732209

 

 

折田明子中央大学ビジネススクール助教のブログです。よく「アメリカは実名・日本は匿名」と言われ、その根拠となる数値も出されているわけですが、この 「『日本人は匿名志向・外国では実名志向』を疑う」というエントリーを読むと、どうもそうとは言えないらしい。

Facebookでは原則として実名であり、対してmixiでは圧倒的に匿名とされていたわけですが、このエントリーによると、それも変化してきているようです。

Facebook では、今なお実名らしき名前が多く、国内外を問わず、私の知人たちもたいてい実名か、それに近い名前を使用しています。私の知人たちは、名前を出しての表現活動をやっている人たちが多いため、一般の平均的利用者とは事情が違い、必ずしも戸籍上の本名ではありませんが、リアルな存在と紐付けがなされる実名です。

これを国別に調べてみようと思ったのですが、それが実名なのか、実名のようなHNなのかの判断は難しい。とりわけ馴染みのない言語だと、あっちの国では「バカ太郎」みたいな意味の偽名でも実名に見えてしまいます。

中国のSNSも調べてみたのですが、英語以上に、中国人の名前は判断ができない。地名なのか人名なのかも判断できない。香港の人たちは、英語風の愛称をもっていて、これを実名としていいのかどうかも迷いますし、本当の愛称かどうかもわからない。

写真も同様で、本人なのか、中国のタレントなのかの判断は不能です。

この作業は挫折したのですが、数日後に 「『日本人は匿名志向・外国では実名志向』を疑う」のコメント欄を見たら、こんなコメントがついていました。

 

 

NaokiChiba 2009/11/09 11:40 興味深い話ですね。

政治や宗教の話は、米国では sensitive な話なので匿名が多いのは、うなずける。

Facebookは、世代により、違うように思える。僕の日米の友人は、すべて実名だが、20代の女子は、友達2000人とか、匿名のネット友人を多く含むようだ。

興味深いのは、YouTubeのエレキギター演奏のビデオ。日本人は顔を写さない人が多いが、日本人以外では、おかまいなしに顔を写す人が多い。なぜだろう。

(日本)
http://www.youtube.com/watch?v=_viRvjxGP-A 

(日本以外)
http://www.youtube.com/watch?v=eXEXADYXQs8

 

 

なるほど、これはいい視点です。顔を出すことと、実名を出すこととはイコールではないですが、密接な関係がありそうです。

 

 

YouTubeの顔出し率を調べる

 

vivanon_sentenceYouTubeにおいて、海外の人たちは自分の顔を晒して意見を言うものが多く、日本では文字で意見を言うだけで顔は出さない傾向があることは『クズが世界を豊かにする』にも書いていますが、これを比較することは難しくて、どうやって数値化していいものか考えあぐねてました。

同一のテーマで各国の動画をピックアップすることができたところで、テーマ自体に文化が反映されてしまいます。「政治に関して語る時は顔を出すが、 自分の仕事については顔を伏せる」「家族について語る時は顔を出すが、宗教については顔を伏せる」といった文化的な差が生じてしまう可能性があるわけで す。例えばマリファナや売春のように、国によって合法だったり、違法だったりすれば、それも影響します。

その点、音楽ものは条件を統一することがかなりまで可能であり、「メタルだと顔を隠すが、パンクだと顔を出す」ということはほとんど考えられないでしょう。

しかし、数本見ただけではわからず、また、我々が動画を見る時に、「日本人」「それ以外」に対する視線が違っている可能性がありますので、印象だけではなく、数値を出す必要があります。

コメントをしているNaokiChibaさんが数値を出していないかと思ったのですが、ブログにはそれらしきエントリーはない。そこで、アイデアを拝借し、「アマチュアがギターを演奏している動画」を200本以上ピックアップして顔を出しているかどうかをチェックしました。丸2日かかりましたよ。

「どういう条件で動画を選択するか」「どういう条件で顔を出しているとするか」については細かな基準を作りました。それを説明するだけで、「マツワル」では4千字くらいになってしまったので、ここでは省略。

その結果、驚くべき数字が出ました。

 

 

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