私はこうして性感染症に感染した-性病座談会・前編– [ビバノン循環湯 46]松沢呉一 -5,414文字-
1998年に「BUBKA」に掲載したもの。もともとどこの誰か身元はわからないようにしているので、無断で再録してもいいだろうと判断しました。中ではもっとも身元がわかりそうな情報を出している「エロさん」は、他の私の原稿でも登場していて、隠す気はないですし。
企画した私が言うのはナニですが、これはいい座談会だなと改めて思いました。どうしても性感染症の話になると暗くなったり、ウェットになったりしがちです。そうならざるを得ないケース、そうならざるを得ない病気というのもあるわけですが、「淋病やクラミジアは風邪と同じ」と言っている私としては、そのことを気楽に語り、気楽に検査し、気楽に病院に行った方がいいと思っています。
読まれるためにはシリアスに語るだけじゃなく、面白おかしく語ることも大事であり、「性感染症が怖いからセックスは控えよう」ではなく、「セックスは素晴らしい。でも、性感染症は気をつけましょう」というのが私のスタンス。ヨーロッパ方式。
今だと実体験から私ももっと語れるので、またやりたい。
「性病」という言葉を使っているのはわざとです。冒頭に書いている話は内容が古くなっているので、そういうものとしてお読みください。
日本のSTD事情
まだまだ十分ではないにしても、HIV・エイズについては相当広く知られるようになり、受け入れてくれる病院やボランティア・グループもある。「HIVとともに生きる」なんてフレーズもあったりするが、では他の病気はどうだろう。性行為で感染するのは、淋病、非淋菌性尿道炎、梅毒、軟性下疳など、かつて性病と分類された病気の他、トリコモナス、毛ジラミ、陰部ヘルペス、B型肝炎、クラミジア、尖形コンジロームなど数々の病気があり、これらを総称して性感染症、または性行為感染症(STD)と呼ぶ。
これらの病気については正確なことが案外知られず、「淋病とともに生きる」なんて誰も言ってくれない。こんなもん、抗生物質一発ですぐに治るから、何もわざわざともに生きなくていいわけだが、淋病やクラミジアのように、とくに女性の場合は症状が出にくい病気、出ても自覚しにくい病気もあるため、知らないうちに何年もともに生き、知らず知らずのうちに人に感染させていることがある。
A.デモイア・D.デモイア著『性と健康の事典』(講談社)によれば、カリフォルニアのあるウェイトレスは、何と311人もの男に梅毒をうつしていたという。アメリカ女はさすがにやるな。
感染する率は低いため、セックスしたからといって必ずしも感染するわけでなく、このウェイトレスはこの何倍もの男とセックスしたことになる。
日本人だって負けてはいない。1991年に筑波大の宗像恒次助教授らによって行われた調査によれば、20代から60代までの3,135名中、男性の11.6%、女性の3.2%、平均で7.2%が性行為感染症に感染した経験を持つ。社員が100人くらいいる会社なら、7人もの人が性行為感染症の過去があるっちゅうんだから、たいしたもんである。みんなみんな生きているんだ、性病なんだ。
東京都予防医学協会・東京母性保護医協会は、1987年1月から1991年9月の間、自覚症状がある人、妊娠・出産、子宮ガンや乳ガンの検診のために、医療機関を訪れた人を対象にスクリーニング検査を行った。その結果、スクリーニングの対象になった全女性(有自覚・無自覚含む)の12.9%、男性の27.8%からクラミジア抗原が検出されたのである。
宗像恒次・田島和雄編『エイズとセックスレポート』(日本評論社)
頑張ってますね、日本人も。クラミジア・トラコマティスが目に感染すると、トラコーマとなり、マンコやチンコに感染するとクラミジアとなるもので、近年、爆発的に広がっている。クラミジアに感染しても、女性の場合は、おりものが増えるくらい。男性の場合は尿道に痛みが出て、膿が出ることもあるが、症状が出ない人が多い。この調査では、なんらかの異常があることがわかって病院に来た人を含めているために、これほどの高率になったのだろうが、アトランダムに調べても、それなりにセックスをしている人の1割程度はクラミジアに感染しているとも言われる。症状が出ないからこそ怖いとも言えて、他の感染症を招きやすくなる。
つまり、上にあった性行為感染症体験者の7%という数字は、あくまで自覚のある人であり、自覚がないままに保菌していたり、自覚がないままに自然治癒していたりする人を含めれば、まず間違いなく1割以上、感染経験があるに違いないのだ。
因みに、このクラミジア調査によると、女性感染者の職業では、一位がホステス、二位が学生、三位がソープ嬢とのこと。それぞれ元の数値がわからず、単純にこの順位でリスキーとは言えず、おそらくソープ嬢は定期検診をしているために、この調査のサンプルになった絶対数が多いのだろうし、ホステスもそれなりには病気に気をつけていることが想像できる。その点では、病気に無自覚で、しかしセックスはしている学生がもっともリスキーと言えるかもしれない。
では、性病になったことのある人たちに集まっていただき、病気になった喜び、悲しみを語っていただくとしよう(ここでは今も日常的に使用される「性病」という用語を使用する)。
参加者はエロさん、ゲイさん、エルメス女王、梅毒さん、そして私は司会である。
緑膿菌、尖圭コンジローム、淋病
—本日、皆様にお集まりいただいたのは他でもない、「エイズに負けるな、オレたちだって立派な病気だ」と日の当たるところで自己主張していただこうという趣旨です。では、こちらの方から自己紹介を。
エロ「僕は十代で前立腺炎をやってます。最初は軽く見てたんですけど、垂れ流し状態になってしまいまして、やむを得ず病院に行ったら、すぐに肛門に指を入れられて、“入院しないと子供が作れなくなる”と言われ、いきなり入院ですよ」
—それが緑膿菌というものだったわけですね。
エロ「具体的に言うとそうなんですけど、要するに雑菌性のものだったみたいです。緑の膿ですから、あまり親しみたくないネーミングですよね(笑)。学校を出てからはエロ雑誌の編集をやっていますから、ハメ撮りの撮影を自分でやることもあるし、男優をやることもあったりもしていて、いろいろといただきまして、淋病は2、3回はやってますね」
—あとはコンジロームもおやりになられているとか。
エロ「あ、忘れてました。亀頭にトサカのようなものができて、これはまずいと思ったんですが、しばらくはそのままにしていて。最終的にはオシッコが出なくなって病院に行きまして、また入院してチンコにメスが入りました」
—彼はチンコの病気で二度も入院しているんです。
「すごいですねぇ」「とても勝てない」と一同驚嘆。
エロ「いやあ、それほどでも。僕のオチンチンは変わった形状をしてまして、尿道下裂と言って、亀頭の裏側がパカッて割れているんです。百人に一人くらいいるみたいですけど」
女王「あー、いるいる、そういう人。お客さんで割れている人がいたから、ビックリして“ダメだよ、治さなきゃ。治してあげる”って言って、ロウソクで固めてあげた(笑)」
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