松沢呉一のビバノン・ライフ

クラウドファンディングを検証する 1-厄介な「レイシストカウンター」批判 5(松沢呉一) -2,644文字-

クラウドファンディングで新たな局面に-厄介な「レイシストカウンター」批判 4」の続きです。

 

 

150万円は何を基準に設定されたのか

 

vivanon_sentenceカスみたいな映画であっても、そこに出ることをとやかく言う気はない。しかし、そのカスみたいな映画でカネ集めをしていることについては、名前が使われている以上、出演者や推薦者は責任が生じるのではないか。

では、「レイシストカウンター」のクラウドファンディングは正当なカネ集めなのかどうか。

私はクラウドファンディングの目標金額としていた150万円という金額が理解できず、映画制作に携わっている人物にクラウドファンディングのページを見てもらって感想を聞きました。

 

※「レイシストカウンター」のクラウドファンディングでは「宣伝配給」となっていて、この彼は「配給宣伝」と言ってます。「配給」と「宣伝」のふたつの言葉を並列にしているだけなので、どっちでも可。

 

「内訳が書かれていないので正確にはわからず、あくまで一般論という前提で聞いて欲しいんですけど、ひとつは配給会社に配給宣伝を丸投げで依頼する方法があります。収益が見込めない映画だと、イニシャルで一定金額を請求されることがあります。その相場が150万円くらいです」

—配給会社に先払いした金額分がリクープされて以降は制作者にバックされるわけですね。リクープできなければ金は戻ってこない。IMG_7437

「そういうことです。もちろんヒットしそうな映画だったら、配給会社が買い付けてくれるので、お金なんていらないですよ。他にも配給の条件はいろいろありますが、収益が出る見込みがない映画を配給してもらうには金を払うしかない。でも、『レイシストカウンター』は自主上映ですよね」

—配給宣伝と言いながら配給はしていないと。

「いや、それは言葉の定義次第だと思います。配給は配給会社がやらなければならないわけではなくて、自主上映を続けていくのも配給だと言っていいんじゃないですか。通常、制作した個人が自主上映を続けることを配給と呼ばないとは思いますが、自主配給だと言い張れば間違いとまでは言えない。一度も上映をしなかったら“金返せ”という話ですけど、配給会社に委託していないから約束違反だとは主張しにくいと思います」

 

自主上映でかかる費用

 

vivanon_sentenceでは、自主上映の場合はどれだけかかるのか。

 

—自主上映だと、そんなにかからないでしょう?

「そこは難しい。というのは、場所代は上限があるとしても、宣伝費は限りなくかけられるので、天井はない。チラシやポスター、プレスリリースは作るとして、チラシやポスターをどれだけばらまくか、その際に業者を使うのか、試写会を何回やるか、有料広告を出すのか、ゲストを呼ぶのかによって、大きく違ってMOVIE & DESIGN 映画宣伝ツールのアートディレクションきます。金をかけなければ10万からできるでしょうが、自主上映で100万円かかったとしてもおかしくないでしょう。この場合は、宣伝だけ専門の会社に頼むということもあって、数十万という単位で金がかかります。上映で回収できると言っても、小屋によっては支払いが遅いので、1ヶ月なり2ヶ月の間はずっと持ち出しが続きます。傾いている劇場だと、請求しても請求しても払われないこともあります」

—なるほど。自主上映にしても、おかしくない金額だと。

「あくまで一般論としては。そのあと戻ってくる金はどうするのかの問題はありますけどね。こういう場合は制作費の回収分にすると使途に入れておけばいいんですけど、それもないですもんね」

—制作費もカンパなので、そもそもその必要はないし。

「ああ、そうか。何も書いていない以上、上映期間中の生活費にしていたとしても文句は言えない。プロである以上、それで生活をしていかなければならないですから」

—そうですね。ムッとする人がいそうだけど、そういうもんです。

「批判しにくい金集めだと私は思うんですけど、あの映画のことを考えると、唸ってしまいます。私も予告編しか観てないので断言はできないですけど、いくら金を出しても、配給会社は扱わない映画だと思います。技術レベルが低くてもかける意義のある映画、客が入る映画もあり得るにせよ、限度というのがあります。映画にとって音は決定的ですから、言葉も聞き取れないようなシーンのある映画は断られるでしょう」

—あの音声はあり得ないでしょ。

「プロではあり得ないです。映画を志している学生でもあり得ないと思います。戦場のドキュメンタリーで、爆撃の音で声が聞き取れず、画像がブレブレなのは我慢できるし、かえって臨場感を伝えますけど、インタビューがメインの映画で音が録れていないんじゃ、意味がないじゃないですか。どこの配給会社でも、内容以前の問題として断ると思います。お客さんだって、あんな予告編を出したら、観る気がなくなりますよ」

—いやいや、観てやってくださいよ。映画関係者にとっては参考になることがいっぱいあると思います。「こんなんでいいんだ」って、夢のある作品になっております(笑)。

「猛烈に観たくなってきてます(笑)」

 

 

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