誰でも映画に出演できてしまう時代-厄介な「レイシストカウンター」批判 10(松沢呉一) -2,876文字-
「クラウドファンディングを検証する 4-厄介な「レイシストカウンター」批判 9」の続きです。
クラウドファンディングは想定範囲を裏切る
「反レイシズムのために」とつまらん映画を礼賛する人がいても、その映画が「〜のために」で通じる範囲で留まっていたら問題はない。当然のことながら、「内部の論理」は内部では通用するわけです。
それが外に出た時には「内部の論理」は通用しない。その見極めができなかったのが「レイシストカウンター」のミス。監督だけではなく、協力した人たちのミス。
当初私は「この映画は成立しない。それでもカンパを受け取っているので、東京と大阪のロフトプラスワンで内輪を集めた上映会をやってシャンシャンシャンで終わらせるのだろう」と思っていたことはすでに書いた通りです。ロフトプラスワンで内輪の人たちを集めて上映会をやる分には、さしてクォリティは問われない。著作権侵害も問題にはなりにくい。
ロフトプラスワンであれば、不特定多数に向けながらも、集まるのは顔が見える人たちであり、家庭の延長の感覚です。
あそこまで大胆な著作権無視をやらかしていると、さすがに批判されるかもしれないですけど、内部で処理されておしまい。
今回問題になったのは、その範囲を越えたからです。アップリンクでやるとなれば家庭の延長ではない。それなりの金が動きますから、ビジネスとしてのモラルが問われ、外に向けての責任が生じます。
これを可能にしたのがクラウドファンディングだったわけで、こういうことが起きる時代になっています。カネ集めの方法が変質するとともに、出る人たちももうちょっと慎重にならないと痛い目に遭います。
※写真はロフトプラスワン。何したっていい感じがしますよね。これは下ネタの祭典「下1-グランプリ」の様子です。
尻の映像が全国公開になりかねない時代
たとえばこんな話。
ロフトプラスワンのイベントに出たら、そこに来ていたAV嬢からこんなことを言われます。
「今度私もロフトプラスワンでイベントをやるので、お尻の写真を撮らせて」
「いいよ」というので、その場でケツを出し、彼女はiPhoneで撮ります。直前にウンコをしているので、ケツにウンコがついているかもしれないけど、まあいいか。
そんなことはすっかり忘れていたある日のこと。「AV嬢が撮った男100人の尻」の映画のクラウドファンディングが始まったことを知り、クラウドファンディングのページを見たら、私の名前が出ているではありませんか。
「いやいやいや、たしかに承諾はしたけど、クラウドファンディングって…。こんなことなら、ウンコを拭いてから撮らせたのに」などと複雑な気持ちになります。
そうこうするうちに、アップリンクでの公開が決まって、さらに全国にケツが配給されることに。なんの工夫もなく、iPhoneでただケツを撮っただけの映画が、人気AV嬢が撮ったさまざまな人たちのケツというキャッチーさだけでひとり歩きしてしまう。
今回の話はこれに近いかと思います。ロフトプラスワンでやるんだったら、ケツにウンコついていても気にしない。それがクラウドファンディングって…。アップリンクって…。全国公開って…。
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