松沢呉一のビバノン・ライフ

消極的賛成に留まる理由-大阪市「ヘイトスピーチへの対処に関する条例」を検討する 1(松沢呉一) -2,997文字-

 

大阪市ヘイトスピーチ条例について

 

vivanon_sentence大阪市の「ヘイトスピーチへの対処に関する条例」(以下、「大阪市ヘイトスピーチ条例」についてどう思うかとよく聞かれます。「ビバノン」で触れて欲しいという要請もあったのですが、全然そういう気分になれず、「ビバノン」以外でも、まったく触れずにここまで来てしまいました。

風営法改正のダメージが大きいのです。「なんであんなことになったのか」と繰り返し考えるわけですけど、結局のところ、「何をどうしようとああなったんだろうな」「いくらワシが言っても無駄か」と無力感に襲われていて、私は他の人がやらない街娼インタビューや「レイシストカウンター」批判を地味に続けていきたい気分。今年はまだヘビ探しもしていなくて、これも早くスタートしたいし。

それと、この条例の是非だけを論じても話は完結しないので、簡単には書けないのであります。

しかし、継続審議ということなので、改めて論じておく意味があるでしょう。共産党に対して批判している人たちもいますが、共産党の慎重さを支持します。

条例をよりよくする絶好のチャンスです。皆さんも、必ず条文に目を通し、「ここはこうした方がいいのではないか」と意思表示をしましょう。風営法の比ではなく、シンプルな内容ですから。

 

 

訴訟費用を市が負担する件は後退あるいは改善

 

vivanon_sentence長くなるので、先に結論を言っておくと、私はこの条例案に渋々賛成です。「ここをこうすれば、積極的に賛成できるのに」という点がはっきりあるので、消極的賛成でしかありません。よって、継続審議は大賛成。積極賛成に転じられるように、さらに議論を重ねて欲しい。

ずっと大阪市の対応には期待をしてきて、これに対する橋下市長の姿勢は共感するところも多かったのではありますが、いざ条文を読むと、「どうしてこうしたのかな」という点があるのです。

一方で、「こ行政不服審査法の逐条解説こはどうなんか」と思っていた点が改善されたところもあります(そもそもはっきりと橋下市長が内容を示していたわけではないのですけど)。

第三章の「訴訟等その他の支援」です。当初は「訴訟費用を市で肩代わりする」と報じられていました。これについては行政法の研究者に話を聞きに行ったことがあって、簡単に言うと、行政が特定の裁判の原告に支出するケースは極めて限定されていて、このケースでは難しいとのことでした。

行政訴訟、あるいは不服審査で負ける。負けるような条例を作ってはまずい。

条文では「肩代わり」、つまり返済なしの支出ではなく、「貸与」に後退しているのはそのせいかと思います。貸与であれば問題がないのかどうか私は判断がつかないので、ここでは触れません。行政法に詳しい人、解説よろしく。

 

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