松沢呉一のビバノン・ライフ

妨害されるからこその連帯-映画「バトン」とソウル・クィア・パレード(松沢呉一) -2,573文字-

金相佑君送別会のご報告

 

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その前から風邪気味だったため、金相佑君送別会が終わって、ちょっと虚脱状態。ボーッとしていて、ここ数日、「ビバノンライフ」を全然更新してませんでした。

IMG_7924そのため、送別会の告知をしながら、報告もしてませんでしたが、おかげ様で大盛況、金君も「日本で私が愛されていたことがよくわかりました」とニコニコして韓国に帰っていきました。ご来場の皆さん、ありがとうございました。

私がただひとつ心残りだったのは、金君はこの日のためにだけ作ったポスターとチラシを見ても泣かなかったことです。殺風景な会場に着いて、「楽屋がないから、お茶でも飲んでいて」と追い出し、開演直前に戻ってきて、こんなもんが作られていたとは知らない金君はポスターを見て号泣する予定だったのですが、私が見る限り、終始上機嫌でした。

「あの野郎、気を使って、嘘泣きでいいから泣けばいいのに」と思っていたのですが、先日聞いたところによると、映画の上映中にチラシを手にして崩れるように床にしゃがんで泣いていたそうです。よし、泣いたか。私の仕事は完了。

 

 

山縣真矢「『バトン』に寄せて」

 

vivanon_sentenceこのポスターはデザイン・潟見陽、写真・張由紀夫、モデル(手)・平野太一、AD・私の「タックスノット」チームで制作しました。「タックスノット」は金君もほとんど毎週行っていた新宿3丁目のゲイバーです。

チラシの裏面には東京レインボープライドの山縣真矢代表が文章を寄せています。素晴らしい内容なので、あの日のチラシだけで公開するのは惜しく、すでにFacebookでは公開していますが、こちらにも出しておきます。

 

金相佑『バトン』に寄せて

東京レインボープライド(TRP)共同代表 山縣真矢

「今日はNoと言わなくていいんだ」「ポジティブなメッセージを発していいんだ」。

2013年、普段ヘイトへのカウンターで拳を振り上げている人が、初めてTRPを歩いた際、涙を流しながら漏らした感想だ。この話を知人から聞き、僕は、 ちょっと誇らしい気持ちになった。でも、今はもう、あの誇らしさは、ない。むしろ、後ろめたさや心苦しさに苛まれている。金相佑くんの『バトン』を観てし まったからだ。

実は僕は、レイシストによるヘイトの現場に一度も足を運んだことがない。インターネットで映像を観て怒りや嫌悪を抱くのがせいぜいだった。怖かったのだ。

昨年、僕は初めて、ソウルのプライドパレードに参加した。予期せず、TRPではあり得ない妨害に遭った。十字架を突きつけ凄まじい形相で同性愛者の存在を 否定する人たち。ゲイであることで、面と向かって初めて「死ね!」と言われた。韓国の反同性愛団体と日本の反在日団体とが二重写しになった。

1年後、『バトン』を観た。兵役の面談でゲイだと告白し、留学先の日本でヘイトの現場へ向かわずにはおれなかった金くん。ゲイであり韓国人である金くんが止むに止まれず撮った本作は、僕を臆病な僕と対峙させた。

金くんから僕に渡されたバトンはちょっぴりしょっぱかったけれど、落とさないよう、しっかり握りしめていきたい。

 

 

「バトン」が見せてくれたもの、見せてくれるもの

 

vivanon_sentenceこの文章は本当によく「バトン」という映画を表現していると思います。「レイシズム対カウンター」の構図を「日本対韓国」という国対国の二項対立に落とし込んだ時に見えなくなるものをあの映画は見せています。

わっかりやすく言えば、日本だって韓国だってロクな政府ではないのだし、どっちの国にも他者を認められない狭量な人々がいるってことです。IMG_7905

これだけ人が移動して、これだけインターネットで簡単に国境を越えられる時代には、そういう政府やそういう人々と闘う側は国と国ではない関係を築ける。今、金君がソウルで撮影している「バトン」完結編のラストは、そのことをはっきり示すはずです(今回上映したものも完成はしているのですが、さらに映像を加える可能性が大)。

6月28日のソウル・クィア・パレードはことによると実現できないかもしれない。しかし、いかなる妨害があろうとも、あるいは妨害があるからこそ、私らは連帯が可能です。それが「バトン」のメッセージになるはず。と勝手に私が思っているだけですが。

私もその日はソウルに行く予定です。私はヘテロだし、韓国語はまったくわからないので、ヤツらのヘイトは私が引き受けましょう。

とりあえずは、ソウル・クィア・パレードに対する警察の禁止通告撤回の署名を皆さん、よろしく。

スクリーンショット(2015-06-12 9.26.22)

よく事情がわからない方は、gladxxの記事「署名のお願い ソウルのパレードが中止されようとしています」をお読みください。

 

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