松沢呉一のビバノン・ライフ

キノコホテルは礼儀知らずか?-老害シリーズ・ロック編 3(松沢呉一) -2,980文字-

「シェアさせてください」の不快さ-老害シリーズ・ロック編 2」の続きです。

 

 

 

音楽業界で働く知人からのお願い

 

vivanon_sentence私はかつて音楽業界にいたことがあって、当時の知り合いがカルメン・マキと交流があったりします。ソウルに行っている間に、そんな知り合いからのお願いがありました。

簡単に言えば「古い世代の人たちはわがままなもん。カルメン・マキさんはまだマシな方。遠からず消えていく世代の人たちなんだから、この辺にしてやってよ」といったところ。

聞く耳持たん。

とくにかつて売れてDSCN1065いた人は、当時の気分を捨てられず、わがままだったりしそう。出版界でもそういう話はよく聞きます。

昔の人気作家に「俺様の本を5千部しか刷らないのはどういうことだ」「俺様の本を増刷しないのはどういうことだ」「俺様の本を絶版にするとはどういうことだ」と怒られたという話を編集者から聞いたりします。「昔は知らねえけど、今はてめえの本なんざ売れねえからしょうがねえだろ、ボケが」と怒鳴ってやればいいのに。

その果てに出版社は本当は5千部しか刷っていないのに、作家には1万部と嘘を言い、その分の印税を無駄に払うこともあると聞きます。実際には5千部でも売り切らないのに、作家は今も「俺の本は1万部売れている」と思い込んでいるわけです。

金が入ってくるからいいのかもしれないけど、バカみてえ。これも完全に時代を読めなくなった老害の典型でありましょう。

出版社としては「売れていた時代に世話になったから」ってことでしょうけど、売れた時代はその分の印税を払っているんだから、十分に報いています。出版社が儲かっていた時代ならいざ知らず、こんな時代に何をしているんだか、くっだらねえなあ。くだらないですが、作家が出版社にわがままを言っている分には「勝手にやってろ」って話。それが嫌ならつきあわなければいい。つきあっている以上、そのわがままは聞いたれよ。

※文章とは関係ないですが、ソウルで何度かピースマークを見かけました。ライブハウスとレコード店と壁の落書きと。もとはイギリスの反核運動体CNDのマークですが、日本でこのマークが使用されるようになったのは1960年代末から1970年代でしょう。ヒッピームーブメントとベトナム反戦運動と。その頃、韓国は軍事政権下ですから、こんなマークは使えなかったのではないか。使えたとしても、激烈な民主化闘争の中では使いにくそう。その後、音楽経由で入ってきたため、音楽がらみのシンボルになっているのかも。わずか三例しか見てないのでわからんですけどね。

 

 

わがままはそれが通じるコミュニティ内で

 

vivanon_sentenceミュージシャンのわがままの対象がマネージャー、レコード会社、イベンター、同じステージに立つミュージシャン、ライブハウスの範囲であれば、私とてこんなことは書きません。そのわがままを容認しても、一緒に仕事をしたいと覚悟している人たちですから、「どうぞ、どうぞご自由に」という話であり、これはコミュニティ内のことです。DSCN1144

しかし、カルメン・マキのわがままは、「同じコミュニティに属している」という意識がおそらく薄い若手のバンドに対して向けられたものであり、なおかつTwitterで、あたかもキノコホテルがルール違反をしたかのように、あるいは礼儀知らずであるかのように思わせることを書いたのですから、コミュニティ外部から叩かれることは覚悟の上でしょう。

それが嫌なら、裏でコソコソやればいいのです。「CDを聴きたいから送ってよ」とメールするだけだったら、こんなことにはなってません。

周りの人たちが諌めるべきなのはキノコホテルではなく、批判者でもなく、カルメン・マキです。その点、高橋健太郎さんがずっと対話を続けていて、面識のある人たちがやるべきなのはこれだと思います。やったところでなお理解していないようですが。

それと、私が腹立たしいのは、それに同調して、キノコホテルが無礼であるかのようなことを平気で書いているおっさん、おばはんたちがいたことです。カルメン・マキ一人の問題ではありません。無礼な人間に相応しい態度で対抗したまでのことですから、まず叩かれるべきは先に無礼なことをした方であり、続いて叩かれるべきはそれに同調した人々です。

なんでこういう人たちが出てきてしまうのかを検証することがこのシリーズの目的であって、そのサンプルとしてカルメン・マキは格好の素材を提供してくれたわけです。その素材を引き続き有意義に活用させていただくことにします。

 

 

キノコホテルは礼儀知らずか?

 

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新しい世代は、旧ロック村のことなんて知らんですよ。新しい世代は新しい時代のコミュニティに生きていて、そのコミュニティのルールで動いています。キノコホテルの夜明け~初期実演会 [DVD]

どういうコミュニティに属しているのか知らんですけど、キノコホテルはキノコホテルが属するコミュニティで礼儀作法をわきまえて、ルールを順守しているかもしれない。

対バンには必ず開演前に挨拶をし、ライブハウスには盆暮れの付け届けをし、ファンからのメールにはすべて返事を出している礼儀正しいバンドかもしれない。世話になっているミュージシャン、これからも世話になりそうなミュージシャンであればカバーをする際に挨拶をするかもしれないわけです。

そういった礼儀正しい人たちであっても、オリジナルを歌っていたの人から、なんの権利もないのに権利があるようなことを言いながら因縁つける無礼な人にはキレますし、キレていいのです。

それがいかに理不尽な因縁であれ、「あの人、面倒くさいから、話を通しておこう」ということは当然あるでしょうし、私もやることはあります。若手に対して、「あそこには話を通しておいた方がいい」「あの人に先に話さないと、拗ねるぞ」などとアドバイスすることもあります。トラブルは面倒ですから。

カルメン・マキがそういう人であることを知らず、その根回しをしなかったのはキノコホテルの落ち度と言えるかもしれない。しかし、やらなかったからと言ってそうも責められるべきではない。「運が悪かった」「事故のようなもの」ってことであり、運悪く事故に遭った人を責めるべきかどうか。

 

 

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