米国方式の強さと弱さ-朝日新聞を添削する 11-(松沢呉一) -3,775文字-
「ザッカーバーグの姿勢とFacebookの姿勢-朝日新聞を添削する 10」の続きです。
もうひとつ米国の例
米国では、こういうことも起きています。
事件が起こったのはアメリカ・サウスダコタ州のラピッドシティ。ER看護師のライアン・オリバさんが、Facebookに投稿した動画がもとで、数日後に病院を解雇されました。
その差別的な内容とは、アメリカの先住民族や黒人に対するもので、「むかつくんだよ!」といった抽象的な言葉を動画のなかで何度も繰り返したものです。これを受け、病院長であるギブズ氏は「軽蔑的で人種差別的な言動はまったく許しがたい」との声明を出し、解雇を決めたのです。
動画がFacebook上に投稿されたのは土曜日。週末の2日間でまたたくまに多くの人が動画を再生し、ウイルスのように広がっていきました。
ライアンさんはイライラした状態で動画を撮影し、妹がこれをFacebookに投稿。ライアンさんはこのあと、事態の深刻さを受け、Facebook上に載せられた動画を削除するように妹に伝えましたが、すでにあとの祭り。FacebookやYouTubeで多くの人に視聴され続けました。
ライアンさんはインタビューで「こんなことはするべきではなかった、謝りたい」と後悔と謝罪の言葉を述べています。ライアンさんの家族や友人は、このことが原因で脅迫めいた非難の言葉を浴びるようになりました。
それでもアカウントを削除しないFacebook
「むかつくんだよ」という訳では不足していようかと。検索すると動画がどっかしらに出てきますが、実際にはfucking、mother fucker 、fart、ass、suckという言葉がわずかな間に連発する下劣極まりないものです。
これは今年の5月の騒ぎですが、本人のアカウントはFacebookにまだ残っています。
現在、仕事の記載がなく、当面、職には就けないでしょうし、彼女が放ったfuckの何倍ものfuckがネットでは彼女に向けられているので、社会的制裁は十分になされたと言えるかもしれない。家族まで叩くのは行き過ぎとして。
こちらもFacebookはアカウント削除まではしない。反省したからではなく、反省していなくても削除はしないのです。
ここまでの例でわかるように、Facebookは規約で定義された範囲外にあるヘイトスピーチの削除に対して、また、アカウントの停止については、非常に慎重です。
しかし、米国では、職を失うなどの社会的制裁が加えられます。無数の罵倒も飛んできます。法ではない方法でしっかり社会的制裁が加えられ、社会がそれを支持している。それが米国のあり方です。
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