遊廓の誤用-「吉原炎上」間違い探し 2[ビバノン循環湯 76] (松沢呉一) -2,888文字-
「テレビ版「吉原炎上」は原作と別物-「吉原炎上」間違い探し 1」の続きです。
遊廓は店にあらず
私は映画版の『吉原炎上』を観ていないため、以下はすべてテレビドラマに限定した指摘だとお断りしておく。また、録画していたわけではないので、私の見間違い、聞き間違いがあるかもしれず、気づいた方はご連絡をいただきたい。
単にドラマの批判をしてもつまらないので、このシリーズを読めば「遊廓の実情」がわかるように、また、ドラマを観ていない人でも理解できるように、丁寧に説明していくが、そのため思い切り長く、思い切り細かくなることもお断りしておく。
吉原の歴史的経緯についていまさら改めて説明するのはとても面倒。ネットにもいっぱい出ているので、ここで繰り返すまでもないだろう。詳しくは各自調べていただくとして、現在ソープランド街になっている台東区千束にあった吉原遊廓は、明暦三年に移転するまでの元吉原に対して、正しくは「新吉原」である。しかし、遊廓があった時代から、吉原と呼ばれていたので、以下、吉原で統一する。
原作もドラマもこの吉原遊廓を舞台にしているのだが、ドラマでは、大前提になる「遊廓」という言葉の使い方を間違っている。ドラマの冒頭で、「吉原には数百軒の遊廓があった」と説明していたが(私の聞き間違いじゃなければ)、こんな言い方はできない。
以下は「大辞林 第二版」(三省堂)より。
ゆうかく いうくわく 0 【遊郭/遊▼廓】
遊女を抱えた家が多く集まっている地域。くるわ。遊里。いろざと。いろまち。
ここにあるように、遊廓は「遊郭」とも書く。「廓」はもともと城郭の「郭」と同じ漢字で、どちらも正しい。「廓」は常用漢字にないため、雑誌では「郭」と直されてしまうことがあって、一般に「遊郭」になっているものが多いかもしれないが、私は「廓」の文字を使う方針で、特段の事情がない限り、「遊廓」と書く。現在、「廓」は「くるわ」の意味しかないため、漢字で意味をすぐに理解できるわけだ。
ここでも引用部分を除いて「廓」を使用する。
「廓」は、堀や塀で囲まれた地域を意味し、吉原自体がひとつの遊廓であり、「軒」でカウントするようなものではない。カウントするとすれば「ヶ所」だろう。
「くるわ(廓)」は、通常、遊廓と同じ意味で使用される。明治以降は、東京府内(今で言えば東京都。厳密には同じではないが、東京市は現行の23区に相当)の遊廓のうち、吉原と、明治22年に根津遊廓が埋め立て地に移転してできた洲崎のみを指す場合がある。これを二廓(にかく)と言う。実際に、堀や塀で囲われた一画になっている場所のみを廓としたわけだ。
対して、千住、板橋、新宿、品川を四宿(ししゅく)と言う。宿場町から発展した岡場所が遊廓になった場所のためである。つまり、遊廓にはもともと人気のない場所に隔離するように造成されたものと、街道沿いや寺町などの宿場に付随する形で自然発生したものと、大きく二種あるわけだ。
吉原は「おはぐろどぶ」と言われる堀で囲まれていた。今はもうどぶはないが、石の堀が残っているのを見ることができる。
ドラマもそれを臭わせていたが、このおはぐろどぶは遊女たちが逃げないためにあったとしているものがよく見られる。もしそこまでのことをどぶに期待したのであれば、どこの遊廓でも同じようにどぶが設計されたはずだ。なぜ四宿にはそのようなものがなくても支障はなかったのかを考えるべきだろう。
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