松沢呉一のビバノン・ライフ

公娼と私娼-「吉原炎上」間違い探し 3[ビバノン循環湯 77] (松沢呉一) -3,242文字-

遊廓の誤用-「吉原炎上」間違い探し 2」の続きです。

 

 

 

公娼と私娼の違い

 

vivanon_sentence国語辞典の定義にあったように、広い意味での「遊廓」は、【遊女を抱えた家が多く集まっている地域】ということでいいのだが、一般に「遊廓」と言った場合は、公娼としての売春地域のことを意味する。

公娼」とは、公権力が認める売春の制度のこと。この制度はさまざまあり得るのだが、日本においては遊廓という形で実現してきた。この中で、鑑札と呼ばれる許可証を得た女たちだけが売春することができた。公娼という言葉は、その個人のことを指すこともあるが、通常、個人については別の言葉を使う。

すでに書いたように、東京市内には6カ所の遊廓があり(当初は市内ではなかったものを含む)、東京府内には、ほかに調布、府中、八王子、父島に遊廓があった。とくに市内の遊廓は規模が大きかったため、数で言えば東京は必ずしも遊廓が多くはなくて、たとえば北海道には40もの遊廓があった。広いため、分散するのは当然である。

DSCN5776これらの遊廓以外にも娼家の集まった地域があった。もしくは街娼のような個人営業もあって、これらはいわばモグリであり、「公娼」に対して「私娼」と呼ぶ。

「私娼」は業態のことも、娼婦個人のことも意味し、「ある私娼との生活」といったフレーズはよく見かける。対して、「公娼」を個人に使用するのは私娼との対で使う場合が多く、単独でこの言葉を個人に使うことは少ない。

公娼にいる個人は明治以降「娼妓」である。これは芸者を意味する「芸妓(「げいぎ」だが、関西では「げいこ」とも読む)」とセットになった言葉で、両方を合わせて「芸娼妓」と呼ぶ。法律でもそうなっているし、とくにかしこまっていない文章でも「芸妓」「娼妓」は使われていた。この言葉については次回さらに解説をする。

地域を指す場合は公娼であれば「遊廓」になり、私娼では「私娼街」「私娼窟」などと呼ぶことが多い。明治以降、よく知られた私娼窟には、浅草、亀戸、玉ノ井があり、渋谷、本所、早稲田といった地名も古い本には時々出てくる。これらを広く「私娼街」「私娼窟」と呼ぶこともあるが、時期によっては特定の私娼窟のみを指して「私娼」とすることもある。

私娼には、それ以外の別名も多数あって、「密淫売」という言い方がよく出ていて、「だるま」などの俗称もある。宮武外骨編『売春婦異名集』(成光館出版・大正15年)には地方で使用された私娼の名称も多数掲載されているので、興味のある方はそちらを参照していただきたい。

 

 

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