松沢呉一のビバノン・ライフ

廃娼県・群馬の実情-「吉原炎上」間違い探し 18[ビバノン循環湯 92] (松沢呉一) -4,082文字-

検黴と性病-「吉原炎上」間違い探し 17」の続きです。

 

 

 

やっぱり矯風会は杜撰な分析

 

vivanon_sentence前回取り上げた群馬廃娼記ほか』の著者である藤田徳松は、クリスチャンではあれども、神の名の元の正義で事実をねじ曲げることができない程度には理性があったが、その理性を失う人たちも多数いた。

DSCN6288たとえば矯風会発行の松宮弥平著『群馬県花柳病及接客業婦調』(大正14年)では「群馬県は芸妓と酌婦の数に於ては栃木県よりも多しと雖(いえど)、娼妓なきにより接客婦の総数に至ては三一二人少なし」としている。この時の「接客婦の総数」は公娼と芸妓と酌婦を合わせたもの。つまり、栃木県は娼妓と芸妓と酌婦をカウントし、群馬県は芸妓と酌婦のみ。芸妓も鑑札が必要なので、群馬も栃木も変わりがないとして、酌婦についての調査は基準によって違ってきて、群馬では酌婦として乙種料理店の登録者数のみをカウントしているはず。

これは比較の数字がおかしい。群馬においては、乙種料理店の酌婦として登録されない部分で私娼が増えている可能性があり、制度が違うのだから比較しようがないのである。

制度以外にも、売春する人の数はいくつかの要因が関わっているため、単純には比較することが難しい。

難しいことを前提にしつつ、私も過去に数字の検討をしたことがある。

その時に作ったリストは以下。

 

京都  7・21人
神奈川 5・43人
愛知  4・65人
大阪  4・49人
兵庫  4・70人
福岡  4・39人
石川  4・31人
広島  4・26人
山口  4・01人
長崎  3・96人
東京  3・80人
奈良  3・83人
富山  3・74人
静岡  3・45人
三重  3・33人
北海道 3・11人
香川  2・89人
長野  2・59人
福井  2・58人
和歌山 2・58人
新潟  2・52人
岐阜  2・48人
佐賀  2・28人
徳島  2・23人
山形  2・22人
茨城  2・06人
滋賀  2・06人
高知  2・04人
大分  2・00人
熊本  1・99人
栃木  1・95人
沖縄  1・92人
鳥取  1・89人
福島  1・83人
千葉  1・80人
青森  1・74人
群馬  1・72人
山梨  1・68人
宮城  1・66人
島根  1・51人
埼玉  1・50人
宮崎  1・46人
秋田  1・40人
岡山  1・37人
岩手  1・25人
鹿児島 1・12人
愛媛  0・87人

 

このリストは、林歌子著『涙と汗』(大阪婦人ホーム/昭和3年)に出ている数字を多い順に並び替えたもの。林歌子は矯風会の三代目会頭であり、矯風会が積極的に戦時協力した時期に当たる。

この数字は「娼妓数」「芸妓数」「酌婦数」を合わせた数字の人口千人あたりの率であり、これをもとに廃娼派は「公娼制度をなくしたから、群馬県の売笑婦数は少ない」と主張していた。たしかに下から数えた方が早いが、廃娼派の主張によると、「公娼制度があるから私娼も蔓延る」ということなので、廃娼を実現してから半世紀ほど経てば、もっと下位じゃなきゃおかしい。

 

 

正しい順位を出す

 

vivanon_sentenceその上、この集計もおかしい。厳密には等しくはないが、あえて比較するなら他の道府県は公娼の数、群馬県は酌婦の数になるはず。群馬では実質の公娼は酌婦なのだから。

そこで、その数字を抜き出してみたのが以下。

 

 

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