松沢呉一のビバノン・ライフ

女たちの意思が邪魔だった-歴史を改竄した『みんなは知らない国家売春命令』 4-[ビバノン循環湯 117] (松沢呉一) -3,549文字-

モラルなき著者たち-歴史を改竄した『みんなは知らない国家売春命令』 3」の続きです。

 

 

 

あってはならないハッピーエンド

 

vivanon_sentence小林大治郎・村瀬明は願望によって事実をねじ曲げた。彼らは、女たちがどうあって欲しいと願ったのか。それぞれの話の結末部分にその下劣な願望がよく表れている。

みんなは知らない 国家売春命令』に掲載された告白文の第四話「ふとした夫の過ちから慰安婦になった警察官の妻」では、夫は妻の行方をようやく探し当てる。

 

 

三月前(ママ)、あれほどみずみずしかった妻が、みるも無惨に蒼白い顔に乾いた唇で笑いかけるではないか。

「天罰テキ面ね 。悪い病気にかかっているのよ。もう家にも帰れないわ。坊やに許してもらってね」

 

 

肝炎にでも感染すれば、こういう症状もあるかもしれないが、あり得るかあり得ないかは問題ではなく、このオチは『百億円の売春市場』には存在しない。まったくの捏造なのである。

原文では二人は復縁して中華料理屋を始め、成功している。これが『百億円の売春市場』のラストにもなっている。

まずはめでたし、めでたしというところで、本書の稿を結ばしていただくことにした」でこの本は終わっていて、あっけらかんと終わってしまうことに肩透かしをくらわせられた気がする。

しかし、『百億円の売春市場』の著者がこうしたかった気持ちはよくわかるのだ。辛酸をなめたのは女たちだけではなく、職員たちも日常的にGIの暴力にさらされ、筆者もピストルをつきつけられ、殺される寸前までいっている。これを救ってくれたのはミヨ子というダンサーであった。

彼らの間には強い絆が生じていて、著者は「めでたし、めでたし」で終われるこの話をあえて最後にもってきており、日常的に彼女らに接していた著者の願いにも似た気持ちだったのだろう。

なのに、小林・村瀬は捏造した文章を加えることでその気持ちを踏みにじる。血も涙もない鬼か。

※今回も写真はすべて福生で撮ったものであり、本文には直接の関係はありません。

 

 

小林・村瀬が使わなかった告白文

 

vivanon_sentence「ひとたび売春をやった女は不幸にならなければならない」との思いが小林大治郎・村瀬明の捏造に滲み出ていて、彼らは文章を改竄することで陵辱を繰り返した。彼らの売春観、女性観がよくわかろう。

そういう考えを持つのは勝手。しかし、事実を改竄することは許されるものではない。

みんなは知らない国家売春命令』に掲載された告白文の五本中二本までが性病に感染したことをオチにしている。道徳に反する売春をした人間は制裁を加えられなければならないと考える人々が持ち出す安直な道具が性病なのだ。他者をウソの性病で犯すのが小林大治郎と村瀬明という人物だ。

百億円の売春市場』には、もう一人の告白が出ていて、この人物は性病に感染していると思われるのに、小林・村瀬はこれだけはパクッていない。大好きな大好きな性病の話なのに、なぜ転載しなかったのか。

 

 

女の意思が邪魔だった小林大治郎・村瀬明

 

vivanon_sentenceこれまた真偽は不明だが、私はこの短い文章を読んで不覚にも涙を流した。しかし、小林・村瀬が売春の悲惨さを強調するためには利用価値がなく、改竄しようがなかったため、無視したのだろう。

 

 

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