再刊を勧めたのは矯風会の久布白落実だった-歴史を改竄した『みんなは知らない国家売春命令』 5(最終回)-[ビバノン循環湯 118] (松沢呉一) -2,877文字-
「女たちの意思が邪魔だった-歴史を改竄した『みんなは知らない国家売春命令』 4」の続きです。
事実を歪める人々がいまも意思を踏みにじる
小林・村瀬同様、パンパンたちはRAAの崩壊で街に放り出された被害者であり、犠牲者であるとの表現をしている人たちはよくいて、その始まりがこの本なのかもしれないが、ただそれをなぞっただけではなく、そうであって欲しい人たちが多いってことだ。
目障りなパンパンが国家の犠牲者でしかないと考えれば、その主体性を見ないで済む。どこまでもどこまでも女たちは哀れな意思なき被害者であり、抵抗しない弱者であり、自分らの救済の対象に留めておきたい。
そうすることで街娼たちを狩り込み、病院にぶち込み、街娼たちのグループを崩壊に追い込み、赤線の女たちの抵抗を潰していった歴史を正当化したい。売防法を支える女性蔑視の思想がここにも流れており、その考え方が今なおこの国を支配している。
さらには国民はただの被害者であり、戦争をやったのは天皇と政府と軍部であると思いたいのだろう。そうではなく、国民の多くは戦争を望み、「鬼畜米英」「一億火の玉だ」と叫んだのであり、新聞社も出版社も婦人団体も宗教団体も町内会もそれに協力した。パンパンらが反逆した対象は戦争を支えた日本社会そのものであり、家族制度やそれに基づく道徳によって自分たちの自由を蹂躙してきた日本社会そのものであった。
そのことをなんとかして隠したい人たちが、パンパンたちを哀れな被害者に留めようとしてきた。そうすることによって、自分は彼女らを抑圧してきた加害者ではなく、高邁な救済者の位置にい続けることができるのだ。
新装版で削除された事実
どうしてこんなひどい本が世に出てしまったのかを推測してみよう。
新装版からは記載が消えているが、著者らはこれを書いた当時「内外タイムス」の記者で、『みんなは知らない 国家売春命令』は同紙に連載されていたものである。彼らが勤務していた時代から、「内外タイムス」はエロ紹介記事を掲載していた。それ自体、私は非難すべきことではないと思うが、新装版でそのことを削除したのは、その出処を知られたくなかったからだろう。
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