松沢呉一のビバノン・ライフ

書店からの報告-『闇の女たち』解説編 4-(松沢呉一)-2,078文字-

町田進が言う「強者の論理」とは-『闇の女たち』解説編 3」の続きです。

 

 

誰も気づいていなかった間違い

 

vivanon_sentence戦後間もない調査報告書の集計がおかしいので、『闇の女たち』の中で集計し直しています。それによって「生活のためにやむにやまれず街に立った哀れな女たち」という見方が覆る。

その検算をお願いしていたのですが、元のデータ自体がおかしく、集計もおかしく、ついでに私の計算も間違っていました。検算してもらってよかった。その処理に手間取っているのですが、それを除いて再校もほぼ完了しました。

原稿は、完成した途端に私の中から消えていく感覚が強いので、自分の原稿を読み直すのが大嫌い、よってゲラチェックが大嫌いな私ですが、今回はちゃんとチェックしなきゃいけないと思って、再校までしっかりやりました。

街娼についての定番の本になるとの自負があるものですから、無責任なことはできない。

また、改めて「ちゃんとやらないとな」と襟を正したくなる話を編集者から聞きました。

どこの出版社でもやることではなく、書店対策をしっかりやる出版社に限りますが、ゲラの段階で書店さんに送り、先に中身を読んでもらいます。「こういう本なので注文してくださいね。いっぱい売ってくださいね」と。

書店員は忙しいですから、そんなもんを読むのは熱心な書店員に限り、全国で数名という単位です。「名物書店員」と言われるような人たちです。

その結果、著者の私も、担当編集者も、校閲も気づいていなかった間違いを指摘してきた書店員さんがいました(すでに書店は辞めたそうですが)。

これは的確な指摘でした。インタビューの中に出てくる半世紀以上前の夜行列車の出発時間と到着時間が違うと赤を入れてきた新潮社の校閲さえ気づかなかった言葉上の間違いです。

言われてみればごもっともなのですが、言われないと気づけない。校閲部に引き抜くといいと思います。

どこの誰だろうと思って聞いてみたら、メルマガ「マツワル」の古くからの購読者で、私も名前を記憶しているいる人でした。これだけしっかり読んでくれただけでも感激します。

 

 

パンパンをかくまった記憶

 

vivanon_sentence話はまだ続きます。

その人は弁護士である父親に「らく町のお時って知っている?」と聞いたそうです。有楽町の街娼グループを率いていた実質のリーダーであり、『闇の女たち』で詳しく取り上げています。

八十代になる父親はこう答えました。

「らくちょう? ああ、パンスケか」

古い世代だったら「らく町のお時」の名前くらいは知っているでしょうが、父親は昼は日比谷のGHQでバイトし、夜は銀座で読売新聞の梱包のバイトをしていたため、パンパンのことをリアルに記憶していました。

印刷したばかりの温かい新聞の梱包をしていると、パンパンが狩り込みから逃げこんでくる。職工たちは「あとでやらせろ」と冗談を言いながらかくまったそうです。

 

 

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