松沢呉一のビバノン・ライフ

桜とともに闇に散る-「闇の女たち」解説編 20(松沢呉一)-2,131文字-

街娼になる動機は好奇心だった-「闇の女たち」解説編 19」の続きです。

 

 

パンパンたちの自助グループ

 

vivanon_sentence拙著『闇の女たち』で指摘しているように、焼け跡の街娼たちで特筆すべき点は、自分たちでグループを組織し、時に狩り込みされた時のケアや生活保障をし、時に警察や闇市のボスたちと折衝をし、時に強盗や悪質な客からの自衛をしていたってことです。

ノリは戦前の浅草にいた不良少女団にも近い。あるいは今のレディースにも近い。まさに『肉体の門』の世界です。

ボスは買い物カゴをぶら下げていて、中に自衛のためのドスを隠していたなんて話も『闇の女たち』で紹介しています。生きるか死ぬかの状況だったから街娼になったのではなくて、街娼になることによって殺されて金を奪われるような状況になったのです。それでも女たちは安全な赤線で働くのではなく、路上に立った。

グループによっては性病の対策にまで乗り出していたのですから、性病対策をするのであれば狩り込みではなく、彼らの自主的な対策をバックアップした方がおそらく効果があったでしょう。

狩り込みにも潰されず、売防法にも潰されず、公序良俗派の蔑視にも潰されず、ずっと生き延びてきたグループが各地に棲息していたわけですが、私がインタビューを続けていた十年以上前でも風前の灯火でした。今回確認をして、それらのいくつかは消滅していたことはすでに説明した通り

※写真は上野駅前のオブジェ

 

 

上野の桜組

 

vivanon_sentence白川俊介著『闇の女たち』でも、街娼の組織化についてわずかながら触れられています。まとめた白川俊介がいい加減なため、事実関係がよくわからないところがありますが、これも警察情報でしょうから、事実関係はある程度は信用できそう。この本で私がもっとも注目した内容はここです。「唯一」と言った方がいいかな。

上野の桜組はこの年の五月に結成された五十人からなる不良団。親分は「馬場の芳っちゃん」。高田馬場出身なのでありましょう。

 

 

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