山室軍平も遊廓とグルか?-『親なるもの 断崖』はポルノである 4-(松沢呉一) -2,546文字-
「データで見る娼妓の年齢-『親なるもの 断崖』はポルノである 3」の続きです。
山室軍平が序文を寄稿
前回取り上げた上村行彰著『売られ行く女』の序文は廃娼派のドンとも言える救世軍の山室軍平が書いています。「救世軍までがグルになって、十一歳、十三歳の少女が遊廓で働いていた事実を隠蔽したのだ」とでも言いますかね。
山室軍平はこの本の内容を読まずに序文を書いたようですが、上村行彰の立場から、調査については信頼が置けると山室軍平は判断したのでしょう。
遊廓の客が遊廓や娼妓のことをすべて理解しているわけはない。娼妓や経営者の主観で見たことだけで遊廓や娼妓全体は語れない。それぞれ参考にはなるとしても。
その点、数千という単位のサンプルに聞き取りをした上村行彰著『売られ行く女』の数字は信用できます。山室軍平がそこを評価したのは納得しやすい。第一級の資料と言えます。
上村行彰は廃娼派と通じる考え方をしている点があります。と同時に、事実に基づかない遊廓否定を批判している部分もあります。現実を見ている医者としては当然です。上村行彰が現在生きていたとして、『親なるもの 断崖』を読んだら呆れ返り、怒り狂ったのではなかろうか。
法をくぐり抜けることは可能だったのか
それでもなお「健康診断を受けず、よって鑑札も得ないで、こっそり十一歳、十三歳という年齢の少女を使っていた悪質な経営者がいたのだ」と主張する人がいるかもしれません。
駐在所もなく、外部の人の出入りも少なく、閉鎖された離島や山村だったら、ことによるとあり得たかもしれない(そんな場所でどうやって貸座敷の経営がなりたったのかの謎が新たに出てきますが)。『親なるもの 断崖』も、実在しない島でも舞台にすればよかったのです。これなら検証のしようがないので、児童陵辱やり放題。
しかし、現実の都市では無理。もし鑑札なしで商売をしたらすぐに警察が入ります。私が知らないだけで摘発された例もあるかもしれないですが、まして十一歳、十三歳なんて少女を複数使っていたら確実に摘発されます。
曽根富美子さんはどれだけ遊廓が管理をされていたのか理解していないのでしょうが、まずは警察と税務署が厳しい。なぜ当時、地域ごとの遊客数や売上が細かく公表されているのかと言えば、すべて申告をする必要があったからです。その一人一人に税金がかかりました。したがって、娼妓の数も警察や税務署は正確に把握する必要があって、ここにごまかしがあったら摘発したでしょう。
全国津々浦々で活動していたわけではないですが、廃娼派もうるさい。そちらに付く新聞もありましたから、それらもうるさい。
定番通りに脳梅登場
遊廓はそれらの目に晒され、客も常に受け入れ、それ以外の業者の出入りもあり、医者も出入りします。
働き始めて以降は検黴とも言われる健康診断があり、どこの地域でも道府県令によりその検査頻度が決められており、最低で週に一回、最高で週に二回の検査を受けます。
性病に感染していることがわかると病院に強制入院となって隔離されるため、娼妓たちはこれを嫌い、時には適当な名目をつけて検黴をサボることがあったとも言われていますが、長期でこれを逃れることは難しい。逃れられるんだったら、どうしてああも性病感染が発見されていたのかって話。
『親なるもの 断崖』では「売春するような女は悲惨に死ね」と願う人々の定番である脳梅も出てきて、これで死ぬ娼妓も登場。
これについては繰り返すのが面倒なので、「『吉原炎上』間違い探し」の「遊廓に脳梅はいたのか」をお読みください。なんでこうも定番通りのことを書くかね。なんも考えてないからでしょうけど。
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