松沢呉一のビバノン・ライフ

十八歳未満がいたのは私娼-『親なるもの 断崖』はポルノである 5-(松沢呉一) -2,425文字-

山室軍平も遊廓とグルか?-『親なるもの 断崖』はポルノである 4」の続きです。

 

 

 

私娼の実情

 

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今までさんざん私娼についても書いてきていて、「またやるのか」とうんざりしますが、このシリーズだけを読んで、「戦前だって十八歳未満で売春していたのもいたじゃないか」などといきり立つ人がいるでしょうから、飛ばすわけにもいかない。

家出をして上野に着いたら親切なおじさんやおばさんが声をかけてきて、「女中の仕事がある」と言われて連れて行かれたところは売春屋、「話が違う。こんな仕事はできない」と拒否したら、「さっきの人にもう金を渡しているんだよ。帰りたいんだったら、今すぐその金を返せ。返せないんだったら、働いて返せ」と言われて、泣く泣く客をとるしかなくなった。

なんて話が出てくるのは公娼ではなく、私娼。つまり、官許の遊廓ではないモグリの業者です。これらはすべて違法です。存在自体が非合法ですから、ここでは法の遵守は望むべくもない。

こういう話は国会図書館が公開している資料でもいくらでも読めるので探すとよろしい。貸座敷組合が出していた資料にも出てきます。公娼制度を維持する主張において、「公娼と違って、法が届かない私娼はこうもひどい」という事実が公娼肯定の根拠のひとつになっていたわけです。

公娼と私娼の違いが区別できていない人がいるかと思いますが、両者はまったくの別物。運転免許をとって運転している人と、無免許運転をしている人の違い。大麻取締法に基いて許可を得て大麻を栽培している人と、吸うために違法で栽培している人の違い。そのくらいに違う。

 

 

公娼と私娼は敵対関係にあった

 

vivanon_sentence同じ客を取り合うわけですから、公娼にとって私娼は商売敵でした。そのため、遊廓側は警察に対して「私娼を撲滅せよ」と要請し、これが浅草十二階下を壊滅させた一因になっています。

私娼がひどければひどいほど、公娼は存在意義があります。そのため、必要以上に、貸座敷組合が私娼窟を叩いた可能性もあるのですが、公娼より私娼の方がひどい話が多かったことは間違いがない。

 

 

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