6年間手と口でしかしなかった処女・結婚前も結婚後もセックスしない夫婦-[ビバノン循環湯 126] (松沢呉一) -9,503文字-
ごく親しいところに、結婚してから一度もセックスをしていない夫婦がいる。結婚前には人並みにしていたそうなので、「いつしなくなるか」のタイミングの問題に過ぎず、「結婚して3年でしなくなった」「子どもができてしなくなった」「子どもが大きくなってしなくなった」といったセックスレス夫婦とそんなに違わないのかもしれないが、こんな夫婦は初めてかもしれないと思っていた。
ところが、たまたま自分の書いたものを読み直したら、結婚前もセックスをしたことのない夫婦の話が出てきた。完全に忘れていた。もう10年くらい会ってないが、たぶん今もしていないんだと思う。
この原稿は2003年に書いたものなのだが、すぐに出すと身元がバレるかもしれないので、しばらく寝かせることにしたら、そのまま10年ほど寝かせてしまい、3年ほど前にメルマガ「マッツ・ザ・ワールド」の購読者にのみ公開。
なお、メインの話はそれではなく、「6年間手コキとフェラをしていた処女」の話。エロい話ではなく、切ない話である。
適切な写真を探すのが面倒なので、またも花の写真をあしらっておきました。
蓄積したエネルギーが爆発中
わざわざ言うことでもないが、今の時代にも処女はいる。二十歳過ぎても処女はいる。
二十五歳になったばかりの京美というダチと喫茶店でダベッていたら、彼女も初体験は二十代になってからだと言い出した。現在の京美からは想像しにくい。彼女はエロ話も大好きだし、実践も大好き。彼氏とのセックスも大好きなら、それ以外の男とのセックスも大好きである。
いつも彼女と会うと、私と会っていなかった間に誰とどんなセックスをしたかを聞かされることになり、この日もさんざんそんな話を彼女は語り続けた。
一通り聞いたところで私はこう感想を言った。
「ちょっとやり過ぎじゃないか。数はこなしていいとして、身近なところで食い過ぎると、あとで痛い目に遭うぞ」
彼女はこの一ヶ月の間に、同じ職場の二人の男とセックスをしたというのである。
「そうかなあ」
「セックスだけで済めばいいけど、やれ“好き”だの“惚れた”だのということになってきて、“つきあってくれ”って言われたらどうするんだよ」
「それは困る」
「二度と会わなくて済む相手ならいいけど、職場だとそうはいかないじゃないか。相手は選ばないと面倒が起きるよ」
「そうか、考えてなかった。私、初体験が遅いから、遅れを取り戻さないとバランスがとれないじゃん。できるときはしておかなくちゃって思うんだよね」
初体験が遅いという話は、この時に初めて聞いた。いつもこの数ヶ月の間の話で満腹になるので、過去のことを聞く余裕などないのだ。
「最初にしたのは二十二歳だよ」
まだ三年も経っていない。
「オレが三十八歳まで童貞だったと言って信じるか。君が二十歳過ぎても処女だったなんて、それと同じくらい信じがたい話なんだけど」
「なんでよ。就職してすぐに知り合った男と恋愛してセックスして、それからはセックスが楽しくなって、あれから二年で今やこうだけど、本当に大学までは正真正銘の処女だったよ。興味もなかったし、男に相手にされてなかったんだから。今考えると、ダッサい女だったからね。ちゃんと化粧をするようになったのは就職してからだもん。今もそんなにはしないし」
今なお派手ではないのだが、「ダッサい女」という印象ではない。
「オナニーだってしてなくて、しようとも思わなかったよね。うちって親が潔癖だから、そういう情報は汚いって教えられたんだよ。かたくなにそれを信じていたよね。当時松沢さんに会っていたら、殺人者と同じくらい軽蔑したよ、ホントに。人を殺すにも何か事情があるかもしれないとか、どんな人にも良心はあるとかって考えるから、人を殺した人でも拒絶はしないけど、松沢さんは拒絶したな(笑)」
なんてことを。しかし、わからんではない。
「オレって、複数の女とセックスするわ、風俗は行くわ、口を開けばチンコやマンコって言うわ、気づいたらマンコなめているわ、パンツによくウンコがついているわ」
「ああ、もう目の前から消えてくれってカンジ。松沢さんを殺した人がいても全然軽蔑しなかったよ。かえって同情したか、共感したかも。チンコだマンコだなんて言うような男は殺されてもしょうがないよね」
言い過ぎ。
「本当にそんなカンジだったんだよ。でも、セックスしたら気持ちいいし、楽しいしで、男がいないと耐えられない体になった。セックスしない日は必ずオナニー。今考えると、ホントは好きなのに、無理矢理抑えていたんだと思うんだ」
こういうタイプは爆発力がすごい。しばしば周りをも焼き尽くすので気をつけたい。
女子高、女子大はエネルギーの増幅装置
童貞や処女でもセックスには興味を抱く。むしろ知らないからこそ興味を抱く。私自身そうだった。そういう好奇心、探究心さえ発揮されなかったことが理解しにくい。
「周りの友だちとかってセックスの話をしたりするじゃないか。そういうときに好奇心は抱かなかった?」
「セックスの話や恋愛の話しかしないような女はバカだと思っていたよ。殺されてもしょうがないって(笑)。女子高、女子大だからさ。まっぷたつなんだよね。キャバクラで働いたり、コンパに行ってはセックスするようなのもたくさんいただろうけど、男と縁がまったくないのもたくさんいるんだよ。縁がないというか、男とかセックスとか、どうでもいいと思っている。松沢さんに会ったら殺意を抱くようなのが学内に溢れている(笑)。一般的な話題としてセックスについての話はしていたよ。でも、あくまで社会問題の範疇。“最近セックスレスの夫婦が多いんだってね”とか。生まれてからずっと自分がセックスレスなのに(笑)。でも、自分の話はしなかった。しようとしたって“私、処女”でおしまいだから、話が広がらないじゃん。わざわざ自分が処女と告白する機会もあんまりなかったし」
「でも、人間というのは、セックスとオナニーとウンコの話をしないと、会話が続かないだろ」
「だから、文学の話とか映画の話とか音楽の話とか。女子大って古くさい良妻賢母教育と、古くさいフェミニズムがうまく手を握り合っていて、セックスを嫌悪するタイプとか、セックスしたいのに勇気がないとか、男に縁がないという女を肯定してくれる空気があって、そういうのから目を反らそうとすればできちゃうんだよ」
「それが社会にでたときの爆発的やりまくりのためのエネルギー蓄積になるわけだな」
「そうそう、私みたいに。おかげで今は楽しいセックスができているから、悪いこととは思わないけど、私は家庭教育と女子大教育によって、高度なスケベ女になったようなもんだよ。もちろん、そのまま真っ直ぐいっちゃう人もいるだろうけど。でも、今考えると、早くからセックスしていたら、セックスとオナニーで忙しくて、文学の話を真面目に論ずるなんて機会がなかったかもしれないから、そういう女子大のありかたも意義がないわけじゃないと思う。セックスとオナニーのためだけに生きているわけでもないんだしさ」
「えっ、そうなんだっけ?」
「こういう人間に触れさせないためにも女子大は必要なのね(笑)。はっきりとはわからないけど、私が行っていた大学だと、大学に入る前にセックスを経験しているのは、一割とか二割じゃないのかな。多くても三割。大学在学中にするのも三割くらいかな。だから少なくとも三割くらい、もしかすると半分くらいは卒業まで処女だと思う。私みたいなタイプは友だちもそういうのばっかりになっちゃうんだよね。周りは処女ばっかりだったよ」
「んなわけはないだろ」
「ホントだってば」
「みんなハメまくっていたのに、君にはそういう話をしなかっただけだろ。“あの子にエッチな話をすると殺されるから気をつけた方がいいよ”って噂になっていたよ、きっと」
「絶対そんなことない。私より処女人生が長かったのだっていたんだから。セックスの楽しさを知ってから、“セックスっていいよー、あんたも早くした方がいいよ”なんて言って何人友だちをなくしたことか(笑)」
極端な女である。
セックスはしないまま、手コキとフェラの六年間
それから数日後の土曜日。京美から電話があった。
「松沢さん、今、暇? 松沢さんには信じられないだろうけど、最近まで処女だった友だちを紹介してあげるよ。キャバ嬢だよ」
私は原稿書きを途中で切り上げて、渋谷に向かった。指定された喫茶店に行き、京美と、最近まで処女だったと思われる女のいるテーブルについた。
「この子が話をした明日香。この人はライターの松沢さん」
その直後、私はこう聞いた。
「最近まで処女だったというのは君か」
「あんね、初対面でそういうことを言わないの。それと、大きな声で言わないの」
京美は私に注意した。いつも彼女はどこでも大声でエロ話をするのだが、別の人がいると事情が違うらしい。
話しやすいように、間もなく我々はカラオケボックスに移動することになった。
明日香と京美は高校時代の友人である。しかし、明日香は京美と全然違って、物腰も話し方もおしとやか。見た目も京美とは対照的で、きれいに化粧をし、レースのついた黒いブラウスを着ていて、京美よりいくつか年上にも見える。京美よりも処女でいた期間が長かったということから、キャバ嬢と聞きながらも、もっと地味な女性を想像していたのだが、渋谷のキャバクラというより、銀座のクラブにでもいそうなタイプである。
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