松沢呉一のビバノン・ライフ

酒癖の悪い人たち—下戸による酒飲み擁護 1- (松沢呉一) -2,498文字-

 

酔っていても合意を求めよ

 

 

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積極的合意—yes means yes」のシリーズを書いている時に、関連のバナーを探していて、being drunk is not consentというフレーズに気づきました。

「酔っている時の同意は同意に非ず」、つまり「酒飲みのセックス禁止」を提唱しているのかと誤解してしまったのですが、右の図版を見て、「胸の谷間が出ていたり、ミニスカートだったり、セクシーな服装をしているからと言ってセックスに同意しているわけではない」のと同じく「酔っていることがそれ自体同意の意味ではない」という意味だとわかりました。

酔っていると自制心をなくす人が多いにせよ、誰とでもいつでもセックスするわけではないのだから、そういう場合でも「同意を求めよ」と。やりたい時もあるし、やりたい相手もいる一方、やりたくない時もあるし、やりたくない相手もいるんだから、「ask!」「聞けよ!」。

つまりは、酔っていても同意は有効ってことです。これはキャンペーン用のバナーではなくて、個人メッセージのようですが、同種のフレーズはよく見られます。「積極的合意は一般化しにくい」にも出ています。

当たり前ですけど、酔っ払った状態でセックスする人たちはどこの国でも多いのであります。酔っぱらいたちが、冷静に「積極的合意」の記録を残すはずがなく、「積極的合意」のルールができた米国の大学でも、引き続き酔っぱらい同士のトラブルは起きると見ました。

 

 

酒癖の悪い編集者

 

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私は酒を飲まないのに、周りに酒癖の悪い酒乱タイプが多数います。アルコール依存症の果てにすでに亡くなったのもいます。アルコール依存症は肝臓をやられる前に、だいたい事故で亡くなることになってます。階段を転げ落ちるか、車に轢かれるか、電車に轢かれるか。あとは自殺か。

以前、担当編集者だったT君も酒癖が悪く、酔っ払うと上司だろうと、担当の作家さんであろうと失礼な暴言を口走り、頭を引っぱたいたりします。店を出ると、バイクや自転車をなぎ倒します。手がつけられないのです。

あまりにひどいので、現モダンフリークスの福田君がT君のケツを路上で蹴りあげたら、T君はその場に倒れこみました。なんか言ってましたが、面倒なのでその失踪日記まま放置して帰りました。新宿通りの車道だったのですけど、車道の端っこだったので、轢かれはしないだろうと。

朝になってT君が目を覚ましたら、頭の横をビュンビュン車が走り、ケツには原因不明の痛みが走っていたそうです。ヤツは酔っている時のことをまったく覚えてないのです。

でも、いいところもあって、酔っている時に「これでおいしいものでも食べてください」となんの脈絡もなく、いきなり万札をくれたことがあります。T君を放置し、皆でラーメンを食べに行きました。

その後、T君は酒をやめられなくなり、アルコール依存症と診断されて編集者を辞めました。すでにその段階では脳の一部が破壊されているだか、萎縮しているだかで、記憶障害はそのためだったようです。酔うと記憶を失う人は、脳が働かなくなっている疑いがあるので、病院に行った方がいいみたいですよ。

それでもT君は幻覚を見るようなところまでは至らず、アルコール依存症の大敵であるストレスが蓄積される編集の仕事を辞め、今は実家に戻って酒を断って、元気にやっているようです。ちなみにお父さんは医者ですが、お父さんもアルコール依存症です。

 

 

酒癖の悪い清義明

 

vivanon_sentence最近、『サッカーと愛国』という本を出した清義明っているでしょ。あの人もひどいですよ。

サッカーと愛国花見の時に、どこの誰かわからんヤツが泥酔して倒れていました。失禁もしていたはず。声をかけてもまったく反応がない。

そこで救急車を呼んだのがいまして、それを聞いた清義明は烈火のごとく怒り出し、「てめえ、こんなことで救急車を呼ぶんじゃねえよ。税金の無駄遣いだ」と叫んで、寝ている男に殴る蹴るの暴行を加えて、周りに止められてました。フーリガンというのはこういう人のことなんだなと実感しました。怖かったです。

もちろん、自身が酔っぱらいとは言え、清義明は「こんなん、ただ酔っ払って寝ているだけ」という判断をした上のことであって、寝ていた男はそれで目が覚め、救急車には帰ってもらったので、適切な対応だったと言えましょう。清義明は救急隊員になって、片っ端から酔っぱらいを殴ったり蹴ったりするといいと思います。

 

 

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