松沢呉一のビバノン・ライフ

プッシー・ライオットは共感できるフェミニストである—強すぎ、逞しすぎ、闘いすぎ、そしてエロすぎ-(松沢呉一) -3,145文字-

 

下品で粗暴な女たち

 

vivanon_sentence前回に続いて、数日前に公開されたプッシー・ライオットのもう一本の新譜「Make America Great Again」をお楽しみください。

 

 

 

 

プッシー・ライオットは「パターナリズムにはうんざり」って表現をずっと続けています。その表現スタイルは一貫して下品。パターナリズムに浸る人たちに蔑視されることも当然覚悟です。

日本の女たちはしばしば「女の私は傷つきました」「同じ女として許せない」と平気で言ってしまいます。だから、それは家父長制道徳に基づくパターナリズムによる救済を求めているんだってばよ。あるいは制度からはみ出す女への制裁を求めているんだってばよ。家父長制の守護者どもはいい加減にしとけ、ボケカス。

フィクション、ファンタジーであっても、事実を伝える報道であっても、言葉の正しい用法を説明した参考書であっても、本人の意思であっても、性的表現を忌避し、封じようとする人たちは、このPVは不快極まりないでしょうね。

裸を晒すこっちのPVも不快かもね。

 

 

 

 

なお、一連のPVにはナディア(Надежда Толоконникова)しか出ておらず、クレジットもNadyaになっています。相棒のマリア(Мария Алёхина)は演劇方面に進んだようで、そちらもなおプッシー・ライオットのメンバーと名乗ってますが、音楽部門はナディアの個人プロジェクトになったようです。

 

 

プッシー・ライオットの日本での評価

 

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以前、「なぜ日本でのプッシー・ライオット支援イベントは失敗したのか」で、プッシー・ライオットが日本で支持されない理由について論じました。

支持しないのはことフェミニストだけではないですから、「なぜ日本ではプッシー・ライオットは支持されないのか」と問うてもいいのですが、海外で支援活動をやっていたのは主としてフェミニストたちです。日本で支援イベントを主催した英国人女性もフェミニスト。したがって、「なぜ日本のフェミニストたちはプッシー・ライオットを支持しないのか」と問うてもいいでしょう。

ここにガラフェミ(ガラパゴス・フェミニスト)の特性がよく出ているのだと思います。

これに限らず、「日本人は海外のことには関心が及ばない」という傾向もあるでしょうが、ボブ・ディランについての報道は山ほどなされて、SNSでもボブ・ディランのことを語りたがる人たちはああもいます。

そりゃ、表現者としてはボブ・ディランの方が偉大でしょう。ノーベル賞がからんでいるので、権威を背景に語りやすいし。

今はどんどん音が変わってきてますけど、初期のプッシー・ライオットの音は40年前のポイズン・ガールズとたいして変わらんかもしれない(ポイズン・ガールズはシングルしか持っていなかったため、よくは知らん。女のパンクバンドという連想だけで名前を出してみました。上のジャケットはポイズン・ガールズのアルバム「HEX」)。

音だけだったら、いまさら私もプッシー・ライオットを聴かなかったかと思います。カラオケで歌えないし。

 

 

プッシー・ライオットは共感できるフェミニスト

 

vivanon_sentenceそれでも海外では、あれだけのミュージシャンや政治家たちが彼女たちの逮捕、拘束に抗議をし、アムネスティほかの人権団体がロシア政府に対して抗議声明を出し、数々のフェミニストたちが支援活動をし、ソチ・オリンピックの際には彼女たちの動きをメディアが逐一報じてました。音楽の好き嫌いではない。音楽表現として優れているのかどうかでもない。

ポイズン・ガールズと変わらないとしても、私は彼女たちの闘いに共感をしました。

ソチ・オリンピックの際には、オリンピック自体ではなく、彼女たちの動向を英文の報道でずっと追って、それをFacebookで日々流しておりました。

風邪で体調を崩しながらも、「金を落とさねば」と支援イベントの会場に向かいました。

しかし、彼女たちの動向を追っていたのは音楽系メディアの一部と、アート畑の一部、社会運動家の一部、その他の変わり者たちであって、どうして日本のフェミニストたちは、海外のフェミニストたちのように、積極的支持を表明しなかったのでありましょうか。もちろん、表明した人はいたでしょうが、大きな動きにはならず、支援イベントは失敗に終わりました。

 

 

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