松沢呉一のビバノン・ライフ

プッシー・ライオットの新譜「Straight Outta Vagina」と女言葉の不自然さ-(松沢呉一) -3,016文字-

 

クリをこすって祝福している

 

vivanon_sentenceプッシー・ライオット健在。続々と新譜のPVが公開されています。

以下は、「ガラパゴス・フェミニズムはかく完成した」で使用したPATRIARCHY IS BORING」のバナーが出てくる「Straight Outta Vagina」。

 

 

これを告知するプッシー・ライオットのツイート

 

 

 

 

私たちのマンコを世界に向けて見せられて嬉しいし、誇りに思っている。一日中、クリをこすって先行公開を祝福してる。

ってところ。これをNMEジャパンはこう紹介。

 

 

プッシー・ライオットはビデオと共に「私たちはヴァギナを世界に披露できて、嬉しいと同時に誇りに思ってるわ」とツイートし、「1日中クリトリスをこすって公開初日を祝福するの」と続けている。

プッシー・ライオット、新曲“Organs”と“Straight Outta Vagina”のビデオを公開

 

 

これに対して、私とともにずっとプッシー・ライオットを追っている吉田尚史さんがFacebookで翻訳するのに「わ」「の」はいらないんじゃないかと投稿。

このコメ欄にも書いたように、翻訳での女言葉が気になることがあります。

私の世代でも古くさい女言葉を素で使うのが少しはいます。ほんの少しですけど、「〜ですわ」「〜ですの」みたいな語尾を使う。でも、私ら、あるいはその少し下くらいがギリギリ最後の世代ではなかろうか。脇毛とともに女言葉を保存していたのが黒木香ですが、ああなるとキャラを立てるためのシャレにしか聞こえない。

それが今も翻訳文では残っています。

 

 

「おいしい」から「うまい」へ、「アソコ」から「マンコ」へ

 

vivanon_sentence今から四半世紀前、週刊誌で、女言葉はすでに死語であることを調査した記事を作ったことがあります。

きっかけはダイヤルQ2だったかと思います。

当時私はQ2のレポートを書いていて、相手との会話を文字に起こすと、話している時の印象とはまったく違ってくる。「この子はかわいいな」と思っても、文字にするとそのかわいさが出ない。声や抑揚でかわいいとの印象を受け取っていて、言葉は男と一緒なのです。

週刊誌の記事では、渋谷、原宿の街頭で取材をしました

翻訳がつくる日本語―ヒロインは「女ことば」を話し続ける中高生の女子たちに聞いたら、「わざと使う時以外は女言葉を使わない」と回答。すでにギャグなのです。「女言葉を使うのはオカマだけ」と言っているのもいました。

性器の呼び方も聞いていて、女同士だと「オマンコ」も使う。「“膣、かいい(痒い)”とか言う」といった証言も得ました。婉曲な言い方も残ってはいますが、この世代にとっては「アソコ」「アレ」といった遠回しな言い方の方がいやらしいという感覚。

そう聞いた時の答え、つまり自覚している言葉遣いと、実際の言葉遣いがずれている可能性があるので、高校生何人かを喫茶店に連れていって、軽く座談会をしてもらいました

その時のテーマはなんだったか忘れましたが、言葉を引き出すためのエア座談会であり、「言葉遣いを知る」という真意は教えてません。

この時も、女言葉は一切使っておらず、「このパフェ、うめえ」みたいな発言連発で笑いました。私らの世代では、女子は「おいしい」であり、「うまい」は男言葉という印象がなおあったと思うのですが、その子らは「うまい」どころか、「うめえ」。

最近は女子アナでも、ラーメンを食って、「うまい」と言ってますから、これについてもすでに男女差なし。

※検索してみたら、「翻訳では男言葉、女言葉がなお保存されている」と指摘した本はすでに出ていました。そりゃ、これを不自然に感じる人たちはいますわね。

 

 

メールにおける女言葉

 

vivanon_sentence

にもかかわらず、この頃は、雑誌を見るとなお女言葉が使われていることがありました。取材相手の若い女子が女言葉を使っている。

「これは取材せずに、若い世代との接点のないおっさん記者が想像で書いたな」とわかる。取材しているのだとしても、録音した言葉をそのまま再現したものではないとわかる。

 

 

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