松沢呉一のビバノン・ライフ

全裸合コンの顛末—日本でナチュリズムを実践する試み-[ビバノン循環湯 144] (松沢呉一) -4,659文字-

裸体運動(ヌーディズム・ナチュリズム)と陰毛の関係」に書いたように、かつて全裸で合コンをするという計画を立てたことがありました。その時の原稿が出てきたので循環しておきます。10年以上前にネットに出したものです。その時は冒頭の芸人の名前を出していたのですが、頭のイカれたクレーマーの多い昨今、何を言い出すのかわからない。私だけなら無視するなり、罵倒するなりすればいいのですが、そっちに火の粉が飛ぶといけないので、Aさんにしておきました。

 

 

全裸でラジオ収録

 

vivanon_sentence最近、芸人さんとのつきあいが多く、先日、Aさんに聞いた話がムチャクチャ面白かったので、紹介しておく。

彼がかつてやっていたラジオ番組の最終回を記念して、公開録音をやることになった。どうせだったら最後に馬鹿なことをやらかそうということになって、「参加するには条件があります。全裸になれる十代の女性だけ入場可能です」と番組で呼びかけた。

その当日、20人くらいの女子たちが集まった。最年長で19歳、ほとんどは中高生である。控え室で脱いで会場に入る。この日は出演者もスタッフも全員全裸。ディレクターも全裸でキューを出す。もちろん、Aさんも裸。

エロ街道をゆく―横丁の性科学 (ちくま文庫) Aさんのファンにとっては憧れのチンコを見られるのだから、裸になることなんざ安いものだ。

しばらく女の子たちはモジモジして、手で股間や胸を隠していたのだが、途中からは当たり前の光景になって、お股を広げて笑っていたそうだ。

現場の空気は想像がつく。銭湯や温泉と一緒。女子と男子が混じっても、混浴の温泉と一緒である。

その様子をそのままオンエアするわけにはいかず、「全員裸ですね。でも、ウソですよ」とあくまでそういう設定のウソだということを強調して放送し、なんの問題もなかったのだという。

今だったら、娘たちは無邪気に親に話し、「なんてことを」ということで馬鹿親がラジオ局に抗議したり、警察に通報したり、良識ぶったメディアが叩いたりするんだろうが、十年ほど前はそういうせせこましいことをする人はいなかった。おおらかでいいじゃないか。チンコをしゃぶらせるわけじゃなし。

しかし、収録が終わって、女の子たちが服を着た途端に一同興奮状態になった。『エロ街道を行く』に書いた「お風呂プロジェクト」の経験と一緒だ。「今までこいつは全裸だったんだぞ」と想像することで欲情が生じる。私らは裸に欲情するのでなく、脳内の想像に欲情するのである。

この話を聞いてひらめいた。セックスなしの全裸合コンでもやるか。

 

 

憧れのヌーディスト・クラブ

 

vivanon_sentence子どもの頃に見た大人の雑誌によくヌーディスト・クラブの紹介が出ていた。それを見て、いつかヌーディスト・クラブに参加することを夢見たものだ。単に裸がいっぱい見られるってことだったわけだが。

実話雑誌」(三世社)昭和37年1月号の巻頭グラビアに、世界のヌーディスト・クラブの様子が15ページにわたって紹介されている。この時代のことだから、無断かもしれないが、海外の専門誌から転載したものだ。

ヌーディズムは、全裸になって日光浴をするところから始まり、日本にも戦前から「裸体運動」として紹介されていたのだが、狭い日本ではなかなか実践する場所がない。

これがヨーロッパやアメリカとなると、数百といった単位の人々が家族とともに参加して、一日中、全裸で過ごす。私有地の中で、バレーボールをしたり、水泳をしたり、ドライブをしたり。サンダルははいているが、すべて全裸である。

この記事には、ヌーディズム提唱者の意見も紹介されていて、服を着ているから猥褻なことを考えるのであって、自分も裸になってしまえば、いかがわしいことは考えなくなり、身も心も解放されるという。

たしかに風俗店の待機室やストリップ劇場の楽屋にいると、タオル一枚の女たちが大股開きで雑誌を読んでいる光景を見てもなんとも思わなくなる。エロい場所でなんとも思わなくなったらつまらないのだが、エロくない場所でエロを排除して解放される体験をしてみたい。

このグラビアを見ていると、子どもの頃とは別の素晴らしさを感じ取れる。まさに裸のつきあいであり、衣装によって作られる地位、立場、属性、関係といった夾雑物を取り除いて人と人とが対面することができるはずだ。

※「実話雑誌」は長期にわたって出ていた雑誌で、ここに出したのは本文に出てくる号より少し前のものかと思いますが、参考までに。

 

 

全裸合コンのルール

 

vivanon_sentenceおそらく欧米では、ヌーディストの裸はわいせつであるとは見なされない。あるいは個人的法益の法律になっていたり、親告罪になっていたりして、誰かが訴えでない限りは違法にならない。

対して日本で不特定多数に呼びかけて全裸のイベントをやると公然わいせつになりかねない。エロではない裸を求めている場なのに理不尽。

しかし、不特定多数に呼びかけなければいいのだから、知り合いだけで少人数で実施する分には問題なし。

私はこの試みを実行するために、ルールを作って知人たちに声をかけた。

ルールは以下。

 

●互いの体に触れることは厳禁

セックスありにすると、単なる乱交パーティになってしまう。それも楽しいが、裸の解放、人間の解放にはならんような気がするので、エロは御法度である。

 

●酒やドラッグ厳禁

酔っぱらったり、ラリッたりすると自制心がなくなって、乱交パーティになってしまいかねない。

 

●勃起厳禁

勃起したら退場。女子は足を広げて性器をむき出しにするのは厳禁。

 

●名前、年齢など、身元がわかることは伏せてよし。ウソのプロフィールもよし

ここに参加することで、「誰々の乳はこうだった」「誰々のチンコはこうだった」と吹聴されることを防ぐためである。

 

 

女子の希望でルール変更

 

vivanon_sentence当初は「連絡先を聞いてはいけない」というルールもあったのだが、参加希望の女子からの要望で「連絡先を聞くのもあり」ということになった。

彼女はこう聞いてきた。

「セックスしちゃダメなんだ」

「乱交じゃないし、ハプバーじゃないからさ」

「そこで話をつけて、あとでセックスしていいの?」

「ナンパの場でもないから、それはダメだ」

「えー、ムリムリ。だって、私、絶対したくなると思う。それだったら私は参加しない」

連絡先を聞かないルールにした方が将来のエロも排除でき、とくに女子は安心して参加できるのではないかと思っていたのだが、このルールは女子受けが悪いのであった。彼女はヤリマンだからな(軽く三桁ヤっている)。

 

 

next_vivanon

(残り 2192文字/全文: 4912文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ