タグマ!メディアを、携帯する。新世代のメディア、タグマ!

松沢呉一のビバノン・ライフ

便所に住む夫婦—双葉社がかつて出していた「夫婦実話」より-[ビバノン循環湯 163] (松沢呉一) -2,267文字-

2016年11月29日19時38分 カテゴリ:エロメディアエロ雑誌性癖ニオイフェチビバノン循環湯


「スナイパー」で連載していた昔の変態シリーズの一本ですけど、読み直したら、そんなにたいした変態ではありませんでした。双葉社はかつて岐阜でこんな雑誌を出していたってところに注目していただければよろしいかと。

 

岐阜で誕生した双葉社

 

vivanon_sentence夫婦実話」という雑誌がありました。昭和二五年から昭和二九年まで出ていたB6サイズの雑誌です。発行元は双葉社。「漫画アクション」「週刊大衆」のあの双葉社です。

双葉社は戦後間もなく、岐阜で設立された出版社です。岐阜は美濃紙の伝統があるため、製造方法が近い再生紙、つまり仙花紙が手に入りやすく、同時期に、いくつかの出版社がこの地で生まれています。

当時の双葉社は広く言えばカストリ雑誌を手がけているのですが、大衆文芸誌というべき路線の雑誌が中心であり、比較的穏健な内容の雑誌が中心でした。

その後、双葉社は、東京に進出して、昭和三十年代になると、「週刊大衆」を創刊して今に至ります。当時、岐阜で創業した出版社で生き残ったのは双葉社だけだと思われます。

「夫婦実話」は売れに売れた「夫婦生活」の二番煎じ雑誌のひとつで、B級雑誌ではありますが、時々面白い記事が出ています。

 

つまりはホームレス

 

vivanon_sentence昭和二七年七月号に出ているのが「共同便所に住む変態夫婦」です。この雑誌は、ちゃんと取材した記事とインチキな記事とが共存していて、この記事はどちらなのかはっきりとはしないのですが、どうもその内容からすると、実話なのではないかと思われます。

夫は「上野の浮浪者上がりの日雇人夫」である古賀甚吉さん、二七歳です。妻は靴磨きだった千代さん、二二歳。タチの悪い浮浪者に千代さんがインネンをつけられているところを甚吉さんが救ったことから恋愛関係になりますが、二人とも住むところがないため、共同便所で暮らし始めます。

「雨もりはしないし、水道はついているし、便所の心配もありません」

そりゃそうですね。しかも、個室ですから、冬も寒さをしのげ、夏は全裸でいたっていいわけです。電気代もいりません。なによりシッコやウンコをしたくなったら、すぐにできます。

二十四時間、便所の中にいるわけではなくて、昼間、甚吉さんは仕事に出かけ、千代さんはリヤカーを引いてクズ拾いです。

夜になると、便器の上に板を置き、その上にムシロを敷き、さらにその上に蒲団を敷いて寝ます。この頃は、ほとんどが汲み取りだと思うので、ニオイが強烈なはずですが、これには予想外の効果もあって、便所のニオイは性的興奮をもたらして、夫婦の営みも順調なようです。

ここがこの夫婦の「変態」なところですけど、たいした変態ではありません。

悪い生活ではないのですが、掃除婦に追い出されることもあり、いつまでも出てこないために、トイレが混んでいる時には文句を言われることもあって、三ヶ月で三十五回も引っ越してます。その度に新しいニオイが刺激になるので、引っ越しも悪いものではないようです。

 

落ち着けなかった温泉旅行

 

vivanon_sentence彼らの楽しみは便所の落書きを読むことです。「これがあれば雑誌や新聞はいらない」と言ってます。

さらには、トイレをホテル代わりにするカップルもいて、今まで五、六回、そういったカップルに出くわしていて、その様子を聞いて興奮して、彼らもまた楽しみます。エロビデオもいらないわけです。そんなもん、この時代にないですけど。

彼らがもっとも気に入っているのは、「地下室」の共同便所です。たぶんこの地下室というのは地下街のことです。周辺にデパートなどのビルがたくさんあって、駅にも便所がありますから、こういうところの共同便所は使用するものが少なくて、落ち着けます。それと、酔っぱらいが来るので、落とし物も多く、彼らはこれまでに一万二千円もの忘れ物を着服。今で言えばその十倍以上の価値です。

しかし、彼らもすべてを着服しているのではなく、某官庁の書類とともに五万円もの現金が忘れられていたのを発見し、金額が多く、大切なものに違いないと、その官庁に届け、五千円のお礼をもらっています。この金で彼らは伊香保温泉に旅行に行ったそうですが、落ち着けなかったと言います。便所臭くないし、蒲団が柔らかいですから。

※写真を撮るために、トイレの落書きを探したのですが、落書きはほとんどなくなりました。落書きしにくい素材、落書きされても消せる素材を壁に使用しているためですが、そうじゃなくても、今は意味のある内容はほとんど書かれていません。写真にあるようなものばかり。インターネットの普及によって、意味ある落書きはそちらに移動してしまったのではなかろうか。

 

next_vivanon

(残り 400文字/全文: 2316文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

前の記事«
次の記事»
ぐろぐろ (ちくま文庫)


クズが世界を豊かにする─YouTubeから見るインターネット論
ポルノグラフィ防衛論 アメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性
デモいこ!---声をあげれば世界が変わる 街を歩けば社会が見える
「オカマ」は差別か 『週刊金曜日』の「差別表現」事件—反差別論の再構築へ〈VOL.1〉 (反差別論の再構築へ (Vol.1))
エロ街道をゆく—横丁の性科学 (ちくま文庫)

ページの先頭へ