松沢呉一のビバノン・ライフ

どんなに辛くても、現金を見ると嬉しい—飛田の女たち 2-3[ビバノン循環湯 166] (松沢呉一) -4,540文字-

会って二十分で「結婚して」—飛田の女たち 2-2」の続きです。

飛田のシステム、おばちゃんの役割等については、改めてここでは説明をしていませんので、わかっていない方は「飛田の女たち 1」からお読みください。

 

 

 

キャラの使い分け

 

vivanon_sentence松沢「小雪ちゃんは意識してキャラを変えるんだ」

小雪「変える変える。テンション、むちゃむちゃ上げていくしぃ」

ミミ「そうやね。ねえさん、声、すっごいんですよ。“ありがとー”って(甲高い声を出す)。あんな声、どっから出すんやろ。コワー、さすがプロや(笑)」」

小雪「なんでやねん、プロちゃうっちゅうねん。あれは三十分だからできるんですよね。そのうちしゃべっているのは。五分か十分でしょ。そのくらいだったら疲れない」

ミミ「二十分だと、ほとんど話す時間はないよね」

松沢「常連さんになっても地を出さない?」

小雪「うん。お客さんを見て、前回、どのヴァージョンでいったかなあって思い出して」

松沢「客によって使い分けるのか」

小雪「おとなしいヴァージュン、ぶりぶりヴァージョン、ハイテンションな元気なねえちゃんヴァージュンとみっつくらいある」

ミミ「私はあまり作らない。しゃべり方は相手によって変わるけど、自然に変わるだけ。ぶりっ子とかできんし。スナックにいた時に、ぶりっ子をやろうと思ったことはあるんやけど、“これは無理やわ”って思ってやめたわ。おとなしいヴァージョンはできるよ。体調が悪くてぐったりしている時(笑)。でも、おねえさんは、体調が悪くて、“ダリぃ”って言っていたかと思ったら、客が来た途端に“キャー”って一瞬にしてテンションあげはるから、すげえって」

小雪「ぶりっ子は甘えん坊になればいいだけだよ」

ミミ「無理」

小雪「私も、スナック時代は、できなかった。みんながいるところだとできないけど、二人っきりやったらできる」

この辺もミミは今時のタイプ、小雪は古いタイプ。昔のトルコ嬢についての本などを読むと、キャラクター分けや演技が定番だったのだ。

 

 

テクの伝授

 

vivanon_sentence松沢「こうやると客が返ってくるって決め技はある?」

ミミ「事務的に送り出すのを嫌がるお客さんが多いんですよ。だから、終わって抱きついてチューをする」

小雪「一緒一緒、“にいちゃんだけよ、チューするのは。誰にもチューしてるって思わんといてな、いい人だからと思ったからだよ”って言って」

ミミ「いやん、怖い(笑)」

松沢「そんだけ徹底して演技をしていると疲れない?」

小雪「だから、ここは時間が短いから。その間、ずっとしゃべっているわけじゃないし」

ミミ「それと、話させる方が多い。質問をして、答えてもらって、それに対してちょっと話すくらいかな」

松沢「こういう仕事は聞き上手が受けるからね。一時間とか入る客は少ない?」

ミミ「いるけど、少ない。二十分か、長くて三十分が多い」

小雪「やっぱ、そこで甘え上手を使う。“もう少し一緒にいたいな“とか言うと、延長につながる」

ミミ「さすが、おねえさん、パチパチパチ(と拍手する)」

小雪「よけいなことを言ってしまった。仕事のコツを教えてしまったわ(笑)」

松沢「露骨にやると、ダメだけどね。“お客さんといると、時間がたつのが早いよね”とさりげなく言うのがいい。そうすると、“じゃあ、もうちょっといようかな”ってことになんじゃん」

ミミ「あー、そうか、そうか」

今日はミミちゃんはいっぱい学習をしている。ヘルスでもそうだが、この世界では個室内のテクについてはあまり教え合わないものだ。

小雪「私はそういうことを教えていこうと思っている。そういうことは女の子同士じゃなくて、“こうしいや”“ああしいや”って全部お客さんに教えてもらったから。でも、本当は女の子同士で教えていった方がいい」

といったテクについては、我が『風俗ゼミナール/女の子編』に詳しく出ている。

 

 

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