松沢呉一のビバノン・ライフ

花びら電車—鉄道を利用した売春業-[ビバノン循環湯 178] (松沢呉一) -3,158文字-

これも「スナイパー」の連載。SMとはなんにも関係なし。

 

 

 

魔の東海道本線

 

vivanon_sentence昭和二十年代から昭和三十年代のエロ系雑誌を読んでいると、よく鉄道を舞台にした売春話が出ています。「花電車」ならぬ「花びら電車」とでも言いましょうか(この頃は「電車」というともっぱら路面電車ですから、「汽車」とすべきでしょうけど)。

戦前からこういう話はあって、実話雑誌「ギャング」(ギャング発行所)の創刊号(昭和七年)に掲載された柴山草二「寝台車のマドンナ」は筆者がフランスに住んでいた時の体験談が出ています。

パリから寝台車に乗ったら、そこにウィーン出身の美人がやってくる。コンパートメントの寝台車に男女が乗り合わせることがあるのかどうかわからないのだが、とにかく彼女と同席する。

ここにはソファがあって、二人で体を密着させて話をする。車掌にはチップをはずんで、中に入ってこないようにした上で、電気を消す。そのあとのことは書いていないが、要するにヤッてしまったわけだ。 しかし、最後に種明かしがあって、彼女は寝台車専門の夜の女だったというオチ。

国内でも、大正時代からこういう話があるのですが、これも寝台車を舞台にした売春業。この頃、夫婦用のダブルベッドが設置され、これが商売に利用されたものです。これについては詳細に書かれているものがあるので、改めて取り上げるとして、戦後は中でいたすのではなく、客探しのために鉄道が利用される例が増えます。

戦後、私が見つけたもっとも古い国内の「花びら電車」の話は、雑誌「千一夜」(桃源社)昭和二五年二月号に出ている都築駿平「魔の東海道本線」です。この記事は四話からなり、それぞれ売春話というよりも、犯罪話ですが、「花びら電車」がどうなされていたのかが理解できます。

 

 

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