松沢呉一のビバノン・ライフ

自己の欲望を直視できず、他者を抑圧する欺瞞—なぜ他者の性を否定しないではいられないのか 2-(松沢呉一) -2,641文字-

「おっぱい募金」批判者の傲慢—なぜ他者の性を否定しないではいられないのか 1」の続きです。

 

 

無限クレーマー

 

vivanon_sentence今年の「おっぱい募金」にはAV男優も参加していましたが、それに対して、「男を出したって意味がない」となお批判する一部の人たちがいました。これは昨年男女が不均衡であることを批判した人たちがいたことにきれいに対応した結果です。会場でスタッフにも確認しましたが、以前も男優が出たことがありまして、それを復活させたわけです。パラダイスTVは誠意があります。

なのに、今度はそれを叩く。誠意はもちろん、論理も知恵もへったくれもなく、ただクレームをつけることだけが目的化し、それが生き甲斐のクレーマーは際限がない。最悪のクレーマーどもです。

この時に、昨年同様、「あの男優たちは強制されている。自分では自分の意思で出たつもりになっていても、社会に強制されている。男が望んでそんなことをするはずがない」となぜ批判しないのでしょうね。

「男は自分の意思で裸になり、触られる決定ができる」と思っているからです。しかし、女の意思なんてものは存在しないのだと信じて疑っていない。女には自己決定権などないのだと。サイテーでしょ。これこそがマリアンヌ・メイシーの言う「男女の役割分担に基づく神話」です。

これと闘ってきたはずなのが婦人運動です。日本の婦人運動はちょっと違いますが(「ちょっと」どころじゃないか)、エレン・ケイの思想にも、こういう考えに対する批判が根底にあったことはすでに見た通り。しかし、この国の婦人運動は、エレン・ケイの思想を換骨奪胎して、男女の役割分担を強化するものに利用しただけでした。それが今なお続いています。まさに糞フェミ。

そこにこそ不均衡が存在することの意味くらい考えてみればいいのに、考える頭はない。そのくらい個人、とくに女を縛る道徳が内面化しています。

今年は男優が出ることがわかって、「男優が出たからって、触りに行く女なんているわけがない」と言っているどアホもいたようですけど、以前から女性の一般参加者はいましたし、今年も多数いたことは報告した通り。私が見た2回から類推するとトータルで100人を軽く超えていたことは間違いない。

事実より、神話を守ることの方が大事。特定宗教の信者じゃなくても、これでは宗教です。

クレーマーたちが見ているのは旧来の道徳に従う女たちのみであり、現実は少しも見えていない。現実は彼らの外にあるのに、その現実を自分の小さな小さな頭の中に押しとどめておこうと躍起になっている。

男優にプレゼントまで持ってきて、大喜びで体に触れている女たちなんぞいて欲しくないという願望は自分の中だけで大事にしておけ。それは現実とは関係がないってことくらい理解しろ。

※地味な写真だったので「STDとクレーマーは社会の敵—『おっぱい募金』に行ってきました」では、使わなかったですが、「おっぱい募金」の承諾書を読み、サインをするスペースです。選挙の投票所みたい。このあと、IDチェックがあるため、偽名は不可。しっかりしてましょう。HIVのポスターが多数貼られていることに注目。

 

 

欲望をコントロールできない人たちが他者の権利を侵害する

 

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時々出る話なのですが、性行動や性表現を規制したがる人たちの中に、なぜか問題のある性行動をした過去のある人たちや、今現在の問題が浮上する人たちがいます。

社会的影響力のある人もいますから、名前を出しても名誉毀損にならないと思いますが、ここでは伏せておくとして、私が知っているだけでも一人や二人ではありません。中にはその相手に話を聞いていて、裏がとれているものも複数あります。

アフター・スピード留置場→拘置所→裁判所 こういう話が出ると、「松沢さんならまだわかるとして、あんなことを言っている人がどうしてそんなことができるのか」という発言をする人がいます。「失礼な」と思いつつ、私だったら「セクハラされた」「傷つけられた」とかなんとか、あることないこと言われてもおかしくないと自分でも思わないではないのですけど、よりによって、「ポルノはけしからん」「売春の合法化は新自由主義だ」「昨今の若い世代の性は乱れている」などと言っている人たちが自らの主張に反するような行動をするのですから、「どうなっているんだ」って不思議に思うのは当然です。

道徳に基づいて他者を否定するなら、不倫もやっちゃダメでしょうに。なんで自分が依って立つ道徳を守らないのか。

 

 

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