松沢呉一のビバノン・ライフ

選択肢を減らすことでは解決しない—選択肢が多い社会はいい社会 2-(松沢呉一) -3,408文字-

同性愛者と障害者と老人が生きやすい台湾—選択肢が多い社会はいい社会 1」の続きです。

 

 

 

バリアフリーは活動の範囲を広げる

 

vivanon_sentence萬華再訪」シリーズは読む人があまりに少なくて途中でやめてしまったため、この話は公開しないで終わってしまいましたが、萬華の夜市でバッタリ知人に会ったことがあります。

彼はCOSWAS関連の団体で活動をしています。「売春を照らす小説-マイク・モラスキー編『街娼』 4」に使用した写真で、真ん中でスピーチしているのが彼。その時、彼には夜市のうまいもんをガイドしてもらいました。

彼は車椅子利用者であり、出歩いてなければバッタリ会うこともない。安心して外に出られるってことは活動の選択肢がそれだけ増えるってことです。

彼はゲイではないですけど、台湾で同性婚が実現しそうなことと、障害者や老人が生きやすいことは、どっかでつながっていそうにも思います。他者の選択を尊重する。そのためには選択肢を狭めていることを改善する。

前回書いたように、台北では、障害者が、路上販売員として働いていることが多く、その事情や制度まではわからなかったわけですが、ここにこんなことを言う人が登場するとしましょう。

 

「あんな仕事を好きでやっている障害者はいるはずがない。自分で選択したと思っていても、社会に強制されているのだ。売り上げも少なく、結局はクジの胴元にもっていかれ、お菓子のメーカーを儲けさせるだけ。商品や金を奪われることや、笑われたり、心ない言葉を投げかけられることもある。襲われたら抵抗もできない。寒い日、暑い日に長時間障害者が外にいるのは体にもよくない。公道であんな仕事をすることで、障害者はまともな仕事ができないことを社会に印象づけ、障害者の地位を固定する。あれは仕事として認められない。ただの乞食である。障害者が路上で物売りをすることを禁止すべきであり、ああいう仕事をしている障害者を施設に入れて更正させるべきだ」

 

障害があると、職業の選択肢は狭まれる。その狭い選択肢の中で選び取った仕事を難癖つけて奪って何が解決しましょう。

 

 

選択肢を減らしてどうする

 

vivanon_sentence台湾にも障害年金のような仕組みはあるでしょうが、それに頼らず、自身の力で収入を得たい人もいるでしょう。その方がより多くの収入を得られる人もいるでしょうし、人と接することができることに喜びを感じる人もいるでしょう。前回取り上げた彼女は笑顔が売りであるように、それぞれの能力や工夫で売り上げを伸ばすことにやりがいを感じる人もいるでしょう。もちろん、これは私の想像ですけどね。

障害があることで選択肢が狭くなることの問題は、こういった仕事を潰したところで何も解消されない。むしろ悪化する。障害があっても支障のない仕事に就けるように法を整備するなり、採用するように企業に働きかけるなりして、選択肢の幅を広げることで解消するしかありません。その上で、あとは本人が決定すればいい。

すぐさまそんな社会は来ないのであるなら、現状の仕事をより安全にできるようにすればいい。胴元がいて、不当に金を吸い上げているのだとしたら、正当な範囲に収めるように働きかければいい。菓子の卸値が高いのなら、安く卸すように働きかければいい。悪いヤツが金を奪うようなことのないように警察とも連携すればいい。

それらにしても、外からでは実情はわからないですから、本人たちに話を聞くしかない。

なのに、実情を知る努力もしないまま、弱者の味方であるかのようなツラこいて、選択肢を潰そうとする。「行政からの援助を受けてメシを食えればいいだろう」「ああいう仕事自体がけがらわしい」という姿勢は本人たちの自立の意思を無視しています。ただ仕事を蔑視しているだけでしょうし、悪しきパターナリズムです。

セックスワークを否定する人たちはこれと同じことをしているわけです。

 

 

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