松沢呉一のビバノン・ライフ

1月21日、ワシントン女性大行進が開催!—受け身の体言止めは是か非か-[ビバノン循環湯 194] (松沢呉一) -3,885文字-

タイトルの「1月21日、ワシントン女性大行進が開催」は「こういう用法はどうなんか」という意味であり、女性大行進について触れた内容ではありません。

4年ほど前にメルマガに書いたものです。たいした内容ではないですが、気にしてない人も多いかもしれないので、循環しておきます。気にしていない人が多いってことは「間違っている」と非難するようなものではないってことですが、不自然に感じる人が少なくないことは意識しておいた方がいいかと思います。

 

 

 

「イベントが開催」という体言止め

 

vivanon_sentence以下はFacebookで流れてきた「週刊金曜日」の記事なのですが、注目すべき点があります。

 

 

 

 

この記事でもっとも注目したのは、【壮大なイベント「THE MORE I SEE Vol.1」が開催】の部分。「イベントが開催した」わけではないので、ここは受け身で「イベントが開催された」とすべきで、受動態を体言止めにするのは気になります。

「注目したのはそこかよ」ってことですが、そこです。バンドのこともチェックしましたけどね。

文章によって、私は体言止めを多用しますが、受動態は体言止めにしないようにしています。していることもあるのですが、それはうっかりです。あるいは、受動態の体言止めでも不自然ではない場合です。

うっかりをやりやすいのは文章の構造が込み入った時です。

たとえば「私がその場に行けば逮捕されるのは必至」を「私がその場に行けば逮捕必至」とやってしまいそう。つうか、たぶん私はやってます。これは「逮捕されることは必至」というのが「逮捕必至」に省略され、これがワンワードとして受け取れるためか、違和感はないようにも感じます。

 

 

おかしな体言止めとおかしくない体言止め

 

vivanon_sentenceこの記事での【SYSTEM FUCKERは豊田市の駅前で約二〇年前から開催されてきたゲリラライブ「炎天下GIG」に魅了されたメンバー四人で構成】という体言止めはおかしくない(上のSSのあとに続く文章です。リンク先参照)。これは能動態がありえます。「SYSTEM FUCKERはメンバー四人で構成されている」という受動態ととらえられるのと同時に、「SYSTEM FUCKERはメンバー四人で構成している」という能動態ともとらえられますから、この場合は不自然ではないし、どちらでも意味上の混乱はありません。

しかし、「開催」のように、はっきり受け身である動詞の体言止めはちゃんと文章が終わっていない印象になります。私だけじゃなく、多くの人がそういう印象を受けるんじゃないですかね。言葉にもよりけりですけど。

 

「田中一郎氏は去年リストラで解雇」

「田中一郎氏は去年シンガポール支社勤務を命令」

 

上はさほど不自然ではありません。これだと私も体言止めにすることがありそう。「解雇」という言葉は受動態で使用されることが多く、「解雇された」という意味であることがわかるからかとも思いますが、「田中一郎氏は去年リストラで社員を解雇した」かもしれないので、避けた方がよさそうです。

下は「命令した」のか「命令された」のかがわかりにくいため、こういう言葉では受動態の体言止めを私は間違いなく避けます。文脈で判断がつきますけど、誤読されかねない文章は避けたい。

その点、「開催」の体言止めは意味上の混乱はあまりなく、だからよく使用されるのだろうと想像できますが、やはり気になる。

 

 

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